栃木県弁護士会からのお知らせ

旧優生保護法最高裁判決を受けての会長談話

 2024(令和6)年7月3日、最高裁判所は、旧優生保護法により強制不妊手術を受けた被害者に対し、国に損害賠償金の支払いを、仙台の事件については高裁で被害者の請求を認めなかった判決が誤りであり損害についてさらに検討すべく高裁で審理をやり直すべきという判決をそれぞれ言い渡した。
 旧優生保護法1条は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するという立法目的を掲げ、特定の精神疾患等を有する者を、そのことのみを理由として「不良」とみなした上、「優生上の見地」からその「子孫の出生を防止する」というものであり、個人の尊重を基本原理とする日本国憲法下においてはおよそ許容しがたい極めて非人道的なものであった。
 手術を受けた方々は、子どもを作れない身体で生活することを強いられ、法律で「劣った子孫」というレッテルを張られた。このことは、障害のある人が今なお社会の中で差別される原因ともなっている。
 旧優生保護法は、母体保護法と名称を変え、1996(平成8)年9月26日に改正施行されたが、国は、2019(平成31)年4月24日に一時金給付法が成立するまで、旧優生保護法の規定に基づく、強制不妊手術が適法である旨の見解を表明し、手術を受けた者に対し、被害救済のための措置をとらなかった。
 旧優生保護法に基づいて強制不妊手術を強いられた方々が国家賠償訴訟を提起し、高等裁判所での判決が言い渡された8件全てで、法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反する旨の判断がされた。2023(令和5)年3月16日に判決が言い渡された札幌高裁判決を始めとして、幸福追求権を定めた憲法13条、個人の尊厳と両性の平等を定めた憲法24条2項にも反する旨が示されている。
 それに対し、時効、除斥の解釈適用をめぐり、損害賠償請求の可否の判断が分かれていた。
 本日の最高裁判決は、被害を受けた多くの方々のうち、わずか11人について出されたものであるが、旧優生保護法と強制不妊手術が憲法に違反する人権の侵害であり、国は今なおその責任を取っていないことを指摘した。
 当会では、2024(令和6)年5月3日の憲法記念日に合わせ、「本年は、基本的人権のうち、特に法の下の平等(憲法14条1項)について、改めて深く考える年としたい」とする会長声明を発表した。
 現在、法の下の平等をめぐっては、選択的夫婦別姓、同性カップル婚などをめぐり、複数の訴訟が係属している。私たちは、日本国憲法下でも、法の下の平等が実現されずに困難を抱えている方がいることを再認識し、この不平等を取り除き、平等権を実現させることが必要である。
 当会は、旧優生保護法最高裁判決をきっかけに、国が責任をもって偏見と差別をなくし、適正な救済をする取り組みを始めることを求める。

2024(令和6)年7月3日
栃木県弁護士会 
会長 石 井 信 行