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特定少年の実名公表及び報道に抗議する会長声明
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2023年(令和5年)9月4日
栃木県弁護士会会長 山 下 雄 大
1 宇都宮地方検察庁は、2023年(令和5年)7月26日、犯行時特定少年の傷害致死事件について、公判請求をすると共に、栃木県内で初めて当該被告人の実名を公表し、報道機関が実名を含む推知報道を行った。また、同庁は同年8月18日にも、犯行時特定少年の傷害致死事件について、公判請求をすると共に、当該被告人の実名を公表し、これについても、報道機関が実名を含む推知報道を行った。
2 2022年(令和4年)4月1日に「少年法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第47号)が施行され、犯行時18歳又は19歳の少年(以下「特定少年」という。)について氏名、年齢、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載すること(以下「推知報道」という。)の禁止が起訴後に限って解除された。しかし、推知報道は、インターネット社会においては半永久的に特定少年の情報を閲覧することを可能にし、特定少年のプライバシーを長年侵害し続け、特定少年の成長発達を妨げ、その更生や社会復帰、社会への適応を阻害するおそれが大きい。そこで、当会は、少年法改正に伴う特定少年の推知報道解禁について反対の立場をとってきた。
上記のような懸念から、少年法改正に際して、両院では「特定少年のとき犯した罪についての事件広報に当たっては、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることも踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならないことの周知に努めること。」との内容の附帯決議がなされた(令和3年4月16日付衆議院法務委員会附帯決議及び同年5月20日付参議院法務委員会附帯決議)。そのため、改正少年法体制下においても、推知報道をするに際しては、少年の健全育成及び更生の妨げにならないように十分に配慮し、事案の内容や報道の公共性について慎重に検討するべきである。
3 今般実名公表がなされた上記事件は、いずれも亡くなった被害者は被告人の実子であり、家庭内での子どもへの虐待が疑われている事案である。このような事案において実名を含む推知報道がなされ、その内容がインターネット上に長期にわたり掲載されることになれば、未成年者である被告人は、将来の就業その他の活動に多大な支障をきたし、健全育成及び更生が妨げられる可能性は極めて高いといえる。他方で、被疑事実が存在すると仮定しても、被告人の危険な行動は家庭内のものであり、一般市民に向けられたものではないから、推知報道をするべき社会的要請は必ずしも高いとはいえない。また、被害者が被告人の実子であり、被害者の遺族も被告人の親族であることからすると、被害者の親族は被告人の推知報道を望むとは考えにくく、かえって推知報道によって大きな苦痛を受けることも想定される。さらに、今回の2件とも揺さぶられっ子症候群(SBS)や虐待性頭部外傷(AHT)が疑われている事案であるところ、これらは無罪判決が相次いでいる犯罪類型であり、判決がなされていない現時点における推知報道については、より一層慎重な態度が求められるというべきである。
以上によれば、上記いずれの事件においても、実名公表及び推知報道がなされたことについては、十分な配慮と慎重な検討がなされたとは言いがたい。
4 したがって、宇都宮地方検察庁に対しては、宇都宮地方検察庁が2023年(令和5年)7月26日に行った犯行時特定少年の実名公表及び同年8月18日に行った犯行時特定少年の実名公表に対して強く抗議を行う。
また、宇都宮地方検察庁による特定少年の実名公表を受けて、推知報道を行った報道機関に対しては、遺憾の意を表明すると共に、少年の更生や社会復帰を阻害する推知報道がインターネット上に残ることがないように、記事の削除等、速やかに対応されること、今後予想される公判等については、実名報道をしないよう要請する。
以上