- 栃木県弁護士会トップページ >
- 栃木県弁護士会からのお知らせ >
- トランスジェンダーの弁護士に対する差別的言動による殺害予告を強く非難する会長声明
トランスジェンダーの弁護士に対する差別的言動による殺害予告を強く非難する会長声明
-
本年6月3日未明から6月5日未明にかけて、大阪弁護士会所属の弁護士の事務所のホームページに、「男のクセに女のフリをしているオカマ野郎を、メッタ刺しにして殺害する」などと書いた殺害予告のメッセージ(以下「本件殺害予告」という)が匿名の者から断続的に送られてくるという事件が発生した。同弁護士は、LGBTなど性的マイノリティの問題に取り組み、自身もトランスジェンダー当事者であることを公表し、活動している。
本件殺害予告のメッセージは、弁護士の業務を妨害し、ひいては弁護士の生命・身体の安全を脅かす行為である。のみならず、社会正義の実現と基本的人権の擁護を使命とする我々弁護士全てに向けられた挑戦であり、司法制度の根幹を揺るがすものであるから、到底看過することができない。
また、殺害予告メッセージの内容は脅迫罪(刑法第222条1項)に該当しうる犯罪行為でもあり、しかもそのメッセージは、トランスジェンダーという属性に着目した差別的なものであるから、いわゆるヘイトクライムというべきものであって、断じて許すことはできない。
へイトクライムは、社会的に不利な立場にあるマイノリティへの偏見や憎悪を具現化したものにほかならず、直接被害を被った当事者だけではなく、同一の属性を有する全ての者に「次は自分が標的になるのではないか」との恐怖と不安を起こさせる。また、ヘイトクライムは、社会において差別感情を惹起し扇動するものであり、更なるヘイトクライムを誘発する危険があるばかりか、対立を煽って社会の分断を招く恐れがある。本件殺害予告のメッセージは、多様な性的指向や性自認を認めず、性的少数者の尊厳を否定するものであり、憲法13条及び14条に反する。
国会議員や政府関係者でさえLGBTの理解自体に疑義が呈されかねない現状下では、同調者を生む恐れがある。
当会は、何人も個人の尊厳が尊重される社会を実現するという憲法の理念に反する本件殺害予告に対し強く非難するとともに、トランスジェンダー当事者を含むマイノリティの人々が、個人の尊厳を持って自分らしく生きることができる、多様性が尊重される社会の実現に向けて、取り組む所存である。
2023年(令和5年)7月3日
栃木県弁護士会 会長 山下雄大