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再審に関する刑事訴訟法改正を求める総会決議
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決議の趣旨
現行刑事訴訟法中再審に関する部分(第四編)をえん罪被害救済のため実効性ある制度に改正すべきである。
決議の理由
えん罪は有罪の言渡を受けた者にとっては深刻かつ不可逆的な人権侵害であるとともに、事案の真相の解明を妨げるものであり、その害悪の大きさはいうまでもない。21世紀に入ってからでも、たとえば足利事件、布川事件、東京電力女性社員殺害事件、東住吉事件、松橋事件、湖東事件の6事件では再審により無罪判決が確定した。栃木県内で発生した足利事件でいえば、DNA鑑定の誤りが明らかになり、あわせて自白が虚偽のものであったことも明らかになったが、元受刑者が無辜の罪により長期間身柄を拘束され人生のうち長い期間自由を奪われたことは重大な人権侵害であった。また、宇都宮東警察署において、2011年7月から翌12年5月にかけて、速度違反の摘発に際して誤測定を行い、その結果、400件以上の誤った罰金刑等が科されたこともあり、えん罪被害は誰にでも身近に起こりうるものである。
えん罪を起こさないようにするためには、捜査手続公判手続の充実が欠かせない。他方、有罪判決が確定した後には、再審(再審請求手続及び再審公判)が充実したものとなり、かつ実効的に機能することが、えん罪被害の救済のために必要不可欠である。ところが、現行刑事訴訟法では再審手続に関する規定はわずか19条しかない(現行刑事訴訟法第435条ないし第453条)。そのため、再審請求事件の審理のあり方が裁判所により異なってしまっている。そのうえ、現行刑事訴訟法の規定は、以下に述べるような多くの問題を内包したままとなっている。
当会は、現行刑事訴訟法の再審に関する規定を改正するよう求めるものである。現行刑事訴訟法の問題点及び改正すべき点は多岐にわたるが、本決議ではとくに以下の点を取り上げ、改正を求めるものである。
1 白鳥・財田川決定の趣旨の明文化及び再審請求理由の拡大
まず、現行刑事訴訟法435条6号は、再審請求理由として、無罪を言い渡すべき「明らかな証拠」をあらたに発見したことを挙げる。上記証拠の明白性の要件について、最高裁は、いわゆる「白鳥決定」及び「財田川決定」において、新証拠それのみで判断するのではなく、新証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべきであり、この判断に際しても「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が適用される旨判示した。しかし、その後の裁判例では、上記白鳥・財田川決定の考え方が必ずしも適切に反映されていないものも見受けられる。そこで、上記白鳥・財田川決定の趣旨を明文化し、上記再審請求理由については、無罪を言い渡すべき「事実の誤認があると疑うに足りる証拠」をあらたに発見したことに改正するべきである。
つぎに、 死刑の量刑を基礎付ける事実に誤認があることを理由とする再審 (死刑の量刑再審)や、捜査や裁判の手続に憲法違反があることを理由とする再審(憲法違反を理由とする再審) を再審請求の理由に加えるべきである。
2 証拠開示の法制化
現行刑事訴訟法には、再審における証拠開示について定めた明文の規定が存在しない。そのため、証拠開示の基準や手続について、裁判所によって大きな格差が生じている。のみならず、検察官が証拠開示に消極的な姿勢を示すことがあり、弊害を生じている。証拠開示の法制化については、2016年(平成28年)の刑事訴訟法改正の際にも、附則第9条第3項において速やかに検討を行うものとされたにもかかわらず、法制化の目処がまったく立っていない。
したがって、再審における証拠開示のルールを法制化すべきである。
3 再審請求手続における検察官の役割の確認及び再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止
現行の再審請求手続は職権主義構造がとられており、検察官は、公益の代表者として、裁判所が行う審理に協力すべき立場に過ぎない。検察官の関与は、裁判所が適正な手続進行を図るために必要と認める限度においてのみ認められるべきであり、通常審と同様に当事者的立場で積極的な主張立証活動を行うことは許されない。このことが徹底されていないきらいがあるため、再審請求手続における検察官の役割を確認する規定を設けるべきである。
また、長期間かけて再審開始決定を得ても、検察官が不服申立をしてえん罪被害者の救済がさらに長期化することが少なくない。上述のような検察官の役割及びえん罪被害者の速やかな救済という再審制度の理念に照らせば、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを認めるべきではないから、これを禁止すべきである。
4 裁判所の公正・適正な判断を担保する制度の整備
まず、確定判決に関与した裁判官や過去の再審請求に関与した裁判官が、当該事件の(新たな)再審請求で担当裁判官として審理や決定に関与した事案があった。こうした事態は、裁判所の判断の公正・適正さに疑念を抱かせるものであるから、除斥・忌避事由として明記するべきである。
つぎに、裁判所の職権行使の在り方を市民の監視下におくため、少なくとも重要な手続は公開して行うこととすべきである。
そして、円滑かつ迅速な手続の進行のため、原則として再審請求の審理は期日を開いて行うべきである。
5 手続保障を中心とする手続規定の整備
現行刑事訴訟法では、再審請求手続における審理の在り方については、ほとんど規定がなく、再審請求人に対する手続保障を欠いている。適正手続を保障した憲法の理念に照らし、再審請求手続における再審請求人の主体的関与を可能にするための手続規定を整備すべきである。また、再審請求人の主体的な関与の前提として、弁護人による実効的な援助を受ける権利が保障されなければならないので、国選弁護人に関する規定及び接見交通権に関する規定も整備すべきである。
以上、決議する。
2023年(令和5年)6月2日
栃木県弁護士会定時総会