栃木県弁護士会からのお知らせ

最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明

 中央最低賃金審議会は,一昨年は,全国加重平均27円の引上げ(全国加重平均901円)を答申したものの,昨年度は,厚生労働大臣に対し,2020年度の地域別最低賃金額改定の目安について、「金額に関し意見の一致をみるに至らなかった」として、金額を提示しなかった。
 その結果,栃木県の引き上げ額はわずか1円であり,最低賃金時間額は854円に改定された。
 栃木県における最低賃金時間額854円という水準は,1日8時間,週40時間働いたとしても,月収約14万7700円,年収約177万円にしかならず,ここから税金,年金や健康保険料等を支払うのであるから,この金額では労働者が賃金だけで自らの生活を維持していくことは困難である。
 我が国の相対的貧困率は依然として15.4パーセント(2018年)と高止まりであり,貧困と格差の拡大は性別や世代を問わず深刻化している。働いているにもかかわらず貧困状態にある者の多数は,最低賃金付近での労働を余儀なくされており,最低賃金の低さが貧困状態からの脱出を阻む大きな要因となっている。
 2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」では,2020年までに最低賃金時間額を全国加重平均1000円にするという目標を定めており、2021年5月14日には菅総理大臣も最低賃金の引き上げは不可欠だとして、より早期に全国平均で時給1000円とすることを目指して取り組む考えを強調している。この目標に少しでも近づけるには、最低賃金の大幅な引き上げが必要である。
 一方、最低賃金の引き上げによって経営に大きな影響を受ける中小企業に対しても、新型コロナウイルス感染拡大に備えた支援策をさらに充実させるとともに、長期的継続的な中小企業支援策を強化すべきである。
 労働者の生活を守り,新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも,最低賃金額の引上げを後退させてはならない。
 本年度の中央最低賃金審議会は未定であるが,昨年同様「引上げ額の目安を示すことは困難であり、現行水準を維持することが適当」という公益委員の見解が示された場合においても,地方最低賃金審議会において自主性を発揮することが強く期待されていることから、栃木県最低賃金審議会においては,中央最低賃金審議会の答申において示された公益委員の見解にこだわらず、最低賃金額の大幅な引き上げを図り,地域経済の健全な発展を促すとともに、労働者の健康で文化的な生活を確保すべきである。

2021(令和3)年6月29日
栃木県弁護士会 
会長 横 堀 太 郎