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東京高検検事長の勤務延長をした閣議決定に強く抗議し、速やかな撤回を求める会長声明
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1 本年1月31日、政府は、定年退官が迫っていた東京高等検察庁の黒川弘務検事長の6か月間の勤務延長を閣議決定した(以下「本件閣議決定」という。)。本件閣議決定は、国家公務員法(以下「国公法」という。)第81条の3についての従前の解釈を変更し、同条を検察官に適用したうえで行われた。本件閣議決定には、次期検事総長人事をにらんだものであるとの報道もあるところである。
しかし、本件閣議決定は、法治主義や三権分立に反するとともに、検察官の政治的な中立性や独立性を侵し、刑事司法に対する国民の信頼を損なうものである。
2 検察庁法第22条は「検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。」と規定し、定年延長に関する特例を一切設けていない。また、同法第32条の2は「この法律(中略)第二十二条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。」と規定する。したがって、検察庁法は国公法の特別法となるものであり、勤務延長を規定する国公法第81条の3が検察官には適用されないことは明らかである。
国公法第81条の3を含む国公法上の定年制度は1981年の国公法改正によって初めて導入されたが、これにあたり総理府人事局で作成された想定問答集や国会の審議における政府の説明においても検察官には勤務延長の適用は除外されるとされている。
以上のとおり、国公法第81条の3が検察官に適用されないことは明らかであり、これは政府の一貫した立場でもあった。それにもかかわらず、国公法第81条の3を根拠に今回の勤務延長を行うことは検察庁法第22条に反する違法なものであり、法治主義に反するものである。また、検察官の勤務延長を認めるという従前の解釈とは正反対のことを単に政府内における解釈の変更という手法によって実現することは、立法権を侵害し、三権分立に反するものである。
3 そもそも、検察官は「公益の代表者」(検察庁法第4条)として刑事事件の捜査・起訴等の権限が付与されており、準司法的職務を担っている。そのため、検察官は、その職務において政治的な中立性や独立性を強く求められる。
それにもかかわらず、政府の恣意的な判断によって検察官の人事に不当に介入することを認めることになると、検察官の政治的な中立性や独立性を侵す事態が生じる。かかる事態は刑事司法の一端を担う検察官に対する国民の信頼、ひいては刑事司法全体に対する国民の信頼を毀損することになる。
4 以上の理由により、当会は、本件閣議決定に強く抗議し、速やかな撤回を求めるものである。
2020年(令和2年)3月26日
栃木県弁護士会
会 長 山 田 実