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日本国籍を有しない者を調停委員から排除しないことを求める会長声明
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1 これまで、全国の各地方裁判所及び家庭裁判所は、仙台弁護士会、東京弁護士会、京都弁護士会、大阪弁護士会、兵庫県弁護士会、神奈川県弁護士会等が調停委員となるべき者として推薦した外国籍の弁護士に対して、日本国籍を有しないことのみを理由に、最高裁判所への任命上申を行わない対応を取っている。
最高裁判所は、この点について、「公権力の行使に当たる行為を行い、もしくは重要な施策に関する決定を行い、又はこれらに参画することを職務とする公務員(以下「公権力行使等公務員」という。)には、日本国籍を有する者が就任することが想定されていると考えられるところ、調停委員・司法委員はこれらの公務員に該当するため、その就任のためには日本国籍を必要と考えている。」(日本弁護士連合会の照会に対する2008年10月14日付最高裁判所事務総局人事局任用課回答)との見解を示しており、上記の各地方裁判所及び家庭裁判所の対応は、この見解に基づくものであると考えられる。
2 しかしながら、かかる国籍のみを理由とする差別的取り扱いが許容されるかは、調停制度の目的、調停委員の役割、権限などを総合的に考慮して、外国籍の調停委員を任命することによって具体的支障が生じるのかを実質的に検討しなければならない。
3 調停制度の目的は、当事者の互譲によって、民事・家事の紛争について条理にかない実情に即した解決を図ることである(民事調停法1条参照)。そして、調停委員の役割は、当事者の互譲による条理にかない実情に即した解決を図るために、当事者の合意形成に向けての調整を行うことにある。
このような調停制度の目的や調停委員の役割から考えて、調停委員の任命について日本国籍の有無が問題となる余地はない。
4 たしかに、調停調書の記載は確定判決と同一の効力を有する(民事調停法16条、民事訴訟法267条、家事事件手続法268条)。しかし、この拘束力は、紛争当事者の合意に由来するものであって、紛争当事者の意思と関係なく公権的に当事者の権利を制約するものではない。紛争当事者の合意に由来して拘束力を認めるのであるから、その合意の調整を図った調停委員が日本国籍を有するかどうかは問題ではない。
また、調停に代わる決定や調停に代わる審判が行われることもあるが、それらを行うのは裁判所であり、民事調停委員及び家事調停委員は、意見を聴取されるに過ぎない(民事調停法17条、家事事件手続法284条)。
その他、調停委員会の権限として、呼出、命令及び措置が規定されている。しかし、これらは、家庭裁判所の行う過料の制裁も含めて、調停による紛争解決をより実効性の高いものとするための付随的な処分に過ぎない。これも日本国籍を有しない者を排除するのに十分な根拠とはいえない。
5 そもそも民事調停法、家事事件手続法および関係規則には国籍を理由とする欠格条項の定めはない。日本国籍を有しない者が調停委員となることによる実質的な支障はなにもない。今後我が国において在留外国人が大幅に増加すると見込まれるのに、当該国の事情や紛争当事者の意識に精通した外国籍の者を排除すれば、当事者の互譲によって、民事・家事の紛争について条理にかない実情に即した解決を図るとの調停制度の目的が十分に活かされないことも考えられる。
よって、当会は、最高裁判所に対し、国籍を問わず広く調停委員・家事調停委員に任命することを求める。また、各地方裁判所及び家庭裁判所に対し、日本国籍を有しないことのみを理由として最高裁判所への任命上申を行わない対応を取らないことを求めるよう通知するよう求める。
以上
2019年(令和元年)8月29日
栃木県弁護士会 会長 山田実