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いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正法案が成立したことに強く抗議する会長声明
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1 政府は今年3月21日、いわゆる共謀罪(以下「共謀罪」という。)の創設を含む組織的犯罪処罰法改正法案(以下「本法案」という。)を通常国会に提出し、本法案は5月23日、衆議院本会議にて可決された後、6月15日の参議院本会議で可決され、成立する運びとなった。栃木県弁護士会では、昨年10月27日付で「いわゆる共謀罪の創設に反対する会長声明」(以下「声明」という。)を発出したが、本法案が成立したことについて強く抗議し、直ちに廃案とすることを求める。
2 声明では、共謀罪の適用対象としての「組織的犯罪集団」が何ら限定にはなっておらず、思想良心の自由、表現の自由、結社の自由を侵害する危険性が高いことを指摘したが、本法案の国会審議でも明らかとなったとおり、その定義は不明確かつあいまいであるうえ、政府の答弁が二転三転しており、その適用範囲が全く定まっていない。
3 また、「準備行為」を要件としたとしても、処罰範囲を限定したものといえないと声明では述べたが、本法案においてもその問題点は何ら解消していない。
本法案では、「準備行為」を「資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の行為」としているが、上記行為が外見のみでは判断できないうえ、国会答弁によれば準備行為の前から捜査を行うことは可能であるとされている。だとすれば、準備行為が処罰範囲拡大の歯止めとして機能することは考えにくい。かえって、捜査機関から犯罪の計画段階にあると認定された場合、準備行為前から捜査の対象とされることによって、尾行や監視等によりプライバシーを侵害され、民主制の大前提である表現活動や思想良心が萎縮的効果により、制約される危険性が高いことは自明である。
4 本法案では共謀罪の対象犯罪が277にまで減らされたというが、いまだに対象犯罪が広範に過ぎるうえ、著作権法違反や森林法違反などが含まれる一方、公職選挙法違反、政治資金規正法違反やいわゆる権力犯罪が除外されており、その選別が恣意的かつ不合理である。我が国の刑事法体系を大幅に変更するような共謀罪の創設にあたっては、対象犯罪の立法事実を一つ一つ丁寧に検討しなければならないところ、この点に関する国会審議はなおざりとしかいいようがない。
5 政府は、共謀罪を創設することが国連越境組織犯罪防止条約(以下「パレルモ条約」という。)を批准するための条件であるかのような説明を行い、本法案の目的をテロ対策であると強弁したうえ、「テロ等準備罪」なる呼称を用いている。これらの説明や表現は次に述べるとおり、「印象操作」を用いて、世論を誤導するために行われているとしかいいようがない。
そもそも、当初の法案には、「テロ」の文言すらなかったし、わが国は数々のテロ対策の国際条約に加盟しているのであるから、共謀罪を創設しなくとも、パレルモ条約を批准することに支障はない。パレルモ条約がテロ対策を直接の目的とするものではないことは、国連の立法ガイド作成に関わったニコス・パッカス教授も認めている。
しかも、本法案は組織的犯罪集団を処罰対象としているものであるから、欧米で最近頻発しているいわゆる「ローンウルフ型」のテロに対する歯止めとはならない。
6 本法案が成立するに至る国会審議のありようについても、極めて問題が多かった。まず、法務大臣が本法案の答弁に問題があることから、野党の同意を得ないまま政府参考人を常時同席させたほか、首相を含め関係者の答弁が不一致、矛盾していることの追及の機会も十分に与えられず、審議が尽くされないままとなっている。本法案は、今まで3度も廃案となった違憲のおそれがある、国民の人権に関わる極めて重大な法案であるにもかかわらず、与党が最初から審議時間ありき、結論ありきの審議を行い、最終段階では参議院法務委員会の採決を省略するという、戦後憲政史上の汚点といえる成立過程をたどった。
さらには、衆議院通過後の国連人権理事会の特別報告者ケナタッチ氏の質問、批判にも、政府は一切耳を傾けず、国連人権理事会の理事国でもあるわが国の国際的な信頼を失墜させかねない行為に及んでいる。
7 本法案が成立したことにより懸念されるのが、本法案の実効性を高めるために、共謀罪を通信傍受の対象とする法改正がなされることである。そのような法改正がなされるのであれば、一層の監視社会化が進行することは火を見るより明らかであり、絶対に許されるべきではない。
8 以上のとおり、本法案については、その内容及び成立過程ともに重大な問題を含んでいるものであり、当会としてはこのような法案が成立してしまったことについて断固抗議し、直ちに廃案とすることを強く求める。
2017年(平成29年)6月15日
栃木県弁護士会
会長 近 藤 峰 明