栃木県弁護士会からのお知らせ

行政書士法の改正に反対する会長声明

 日本行政書士会連合会は,行政書士法を改正して,「行政書士が作成することのできる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求,異議申立て,再審査請求等行政庁に対する不服申し立てについて代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを求める運動を推進している。しかし,行政書士に行政不服申立て等の代理業務を認めることには,以下述べるような問題があり,当会はこれに反対する。
 第1に,行政書士は,行政庁からの独立が認められていないことが挙げられる。すなわち,行政不服申立制度は,行政庁の違法又は不当な行政処分を是正し,国民の権利利益を擁護するための制度であり,国民の代理人は行政庁と鋭い対立関係に立たされるところ,行政書士は,行政不服申立制度の相手方たる行政庁の懲戒権に服すこととされている(行政書士法第6章各条)。これでは,行政書士が行政庁の違法又は不当な行政処分の是正を求めることに躊躇し,国民の権利利益の擁護がはかれなくなる恐れがあるほか,行政書士が適切な対応をしたとしても,不服手続の結果如何では,国民がその公正さを疑い,不満を増大させる恐れがある。
 第2に,行政書士の従前の業務や行政書士試験の内容に照らし,行政書士の能力担保が十分ではないことが挙げられる。
 そもそも,行政書士の主たる職務は,行政手続の円滑な実施に寄与することを目的として,行政庁に対する各種許認可関係の書類を作成して提出するというものである。一方,行政不服申立制度は,先にも述べたとおり,行政庁の違法又は不当な行政処分を是正し,国民の権利利益を擁護することを目的とした制度であり,国民の代理人は行政庁と対立し,ときとして「行政手続の円滑な実施」をむしろ妨げることが求められる。そのため,行政書士の従前の業務の性質及びそこで培われた能力と,行政不服申立手続における代理人の役割及び求められる能力とは,その性質を異にする。
 また,行政書士試験も,行政不服申立て等の代理業務に必要な能力を担保するものではない。行政不服申立て等の代理業務を行うにあたっては,自らの主張が行政庁に容れられない場合をも想定し,初期段階においても行政事件訴訟まで見据え,迅速かつ的確に対応することが重要である。万一,初期段階で適切な判断を誤ると,直ちに国民の権利利益を害することにつながりかねない。行政事件訴訟法第7条は「行政事件訴訟に関し,この法律に定めがない事項については,民事訴訟の例による。」としており,行政事件訴訟を理解するためには,民事訴訟法についての理解が不可欠である。ところが,行政書士試験において民事訴訟法は必須科目とされておらず,行政書士試験合格者であるからといって,行政不服申立て等の代理業務に必要な能力が十分に担保されているとは到底いえない。
 第3に,行政不服申立て等の代理人は十分供給されていることが挙げられる。弁護士は,これまでも,出入国管理及び難民認定法,生活保護法,精神保健及び精神障害者福祉法等に基づく行政手続等の様々な分野で,行政による不当な処分から社会的弱者を救済する実績を上げてきた。そして,平成26年2月1日現在,弁護士数は3万5058人であり,さらに今後も増加している現状からすれば,これに加え,直ちに弁護士以外の他職に行政不服申立ての代理人たる資格を付与すべき立法事実は認められない。
 以上述べたとおり,行政書士に行政不服申立て等の代理業務を認めることには多くの問題があり,当会は,これに強く反対するものである。

2014年(平成26年)3月27日
栃 木 県 弁 護 士 会
会 長 橋本 賢二郎