栃木県弁護士会からのお知らせ

特定秘密の保護に関する法律の廃止を求める決議

決議の趣旨
当会は、特定秘密の保護に関する法律(平成25年12月13日法律第108号)を、直ちに廃止するよう強く求める。
決議の理由
第1 時代錯誤の誤った立法であること
 2013年(平成25年)12月6日、参議院の議決を経て「特定秘密の保護に関する法律」(平成25年12月13日法律第108号、以下「特定秘密保護法」という。)が成立した。
 国民主権、民主主義の下では、主権者である国民が国政について意思を決定するに当たり、国政に関する情報を広く十分に与えられる必要がある。しかし、国の規模での情報公開は、地方自治体に後れ、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(以下「情報公開法」という。)は、成立したのが1999年(平成11年)5月で、施行されたのが2001年(平成13年)4月であり、山形県金山町が1982年(昭和57年)に我が国で初めての情報公開条例を制定してから約20年を経てからのことであった。しかも、情報公開法の下でも、国の安全等に関する情報(同法第5条第3号)や公共の安全に関する情報(同条第4号)などは不開示事由とされているほか、行政文書の不存在(「開示請求に係る行政文書を保有していないとき」)の場合も開示しない旨の決定がされることになっている(同法第9条第2項)。しかしながら、行政文書の不存在は体系的な公文書管理の不備により招来された結果であることもあり、国の安全等に関する情報や公共の安全に関する情報等も、これを開示しないことが国民の知る権利に優越する利益となるのか、不開示のままでは検証しようがない。情報公開法の運用の実際も、国民の知る権利を充たし政府の有するその諸活動を国民に説明する責務(説明責任、情報公開法第1条)を果たしているとはいい難い状況である。
 しかしながら、上述のように、望まれるのは情報公開の一層の推進・充実、不開示情報についても一定期間経過後はこれを開示するというルール作りであり、秘匿し得る情報の拡大ではない。
 したがって、今なすべきなのは、情報公開法の不備を整えることであって、特定秘密保護法は、情報公開に向けた我が国のこれまでの法制度の流れに逆行するものである。


第2 特定秘密保護法の内容的な問題点
1 「特定秘密」の範囲が広範に過ぎ、不明確であること
 特定秘密保護法が「特定秘密」の範囲とする)姫辧↓外交、F団衢害活動の防止及びぅ謄蹈螢坤爐遼瓢澆4分野のうち防衛の分野などは、「特定秘密」として指定し得る事項が自衛隊法別表第4と同様で、防衛省の所掌事務をすべて網羅するように挙示され、列挙による限定はないに等しい。他の分野でも、「特定秘密」概念は広範に過ぎる。
 これでは、行政機関による恣意的運用を防ぐことができず、特に秘匿することが必要でない情報まで主権者たる国民に知らされない結果となり、国民の知る権利を侵害する危険が大きい。


2 適性評価がプライバシーを侵害するおそれが強いこと
 特定秘密保護法は、特定秘密取扱い者の適性評価を行うものとしている。この適性評価は、調査事項が広範囲にわたっている上、精神疾患に関する事項や信用状態その他の経済的な状況に関する事項など機微にわたる個人情報まで含まれていて、その調査によりプライバシーが侵害されるおそれが強い。また、調査事項のうち、「我が国及び国民の安全を著しく害し、又は害するおそれのあるもの」(特定有害活動)という文言は抽象的であり、その抽象性ゆえに行政機関の長又は警察本部長の恣意的判断によって、個人の政治活動や組合活動、更には思想・信条にまで踏み込んだ調査がなされる危険性も否定できない。
 適性評価によって侵害されるプライバシーの権利は多数決によっても侵し得ない個人の尊厳にかかわる権利であり、これを侵害するおそれの強い特定秘密保護法は違憲の疑いが強いと言わざるを得ない。


3 罰則による人権の制約が過度に重いものであること
(1)特定秘密の取得行為の処罰
 特定秘密保護法が処罰の対象とする「管理を害する行為」の内容は、欺く行為や暴行などの例示によってもなお不明確である。これは、罪刑法定主義に反する。
 また、このような不明確な概念で取得行為を処罰することは、報道機関の取材活動を萎縮させ、ひいては国民の知る権利を侵害することになる。

(2)未遂、過失の処罰
 特定秘密保護法は、特定秘密の漏えいと取得の双方について未遂を処罰し、漏えいは過失による場合も処罰するものとする。しかし、特定秘密概念の過度の広範性・不明確性は、何が実行行為に当たるか、どの情報の漏えいを避けるべき注意義務を課されるか、明示し得ない。未遂や過失による場合も処罰することも、処罰範囲の外延を不明確にし、罪刑法定主義に反する。
(3)共謀、教唆又は煽動の処罰
 特定秘密保護法は、共謀、教唆又は煽動をも処罰するものとする。共謀の処罰は行為責任主義に反し、何らの実害も生じていない独立教唆を処罰することは甚だ疑問である。煽動については、目的要件を付加し方法も明示して限定している破壊活動防止法第4条と比べても、特定秘密保護法は限定のない「煽動」をそのまま処罰の対象とするもので、国民の表現活動を著しく制約する。

4 国会の最高機関性を損なうこと
 特定秘密保護法では、国会にも特定秘密が提供され得ることにはなっているが、“詭会であること、知る者の範囲を制限すること、L榲外に利用されないようにすること、だ令で定める措置を講じること、ツ鷆仝気砲いて「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めること」という厳しい条件が付されており、しかもイ郎能的には行政機関の長の裁量判断に係ることになっている。これは、国会が行政をコントロールする議院内閣制の仕組みや国会の最高機関性(憲法第41条)を否定するに等しいものである。
国会の最高機関性は法律によっては侵し得ない憲法上の原理であり、これを損なう特定秘密保護法は違憲の疑いが強いと言わざるを得ない。


5 付可条項では不十分であること
 特定秘密保護法には新たに「国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない。」という条項が付加されたが、これは抽象的な訓示規定にすぎず、如上の問題点を払拭し得るものではない。

6 国際社会のスタンダードを蔑ろにすること
 また、特定秘密保護法は、国際連合、人及び人民の権利に関するアフリカ委員会、米州機構等世界70か国以上の専門家により2013年(平成25年)6月12日に南アフリカ共和国のツワネで公表され、国家機密の必要性を認めながらも国がもつ情報の公開原則とのバランスに配慮すべきだとする「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(ツワネ原則)との整合性についても全く検討されておらず、国際社会のスタンダードを蔑ろにするものであって、我が国に対する国際社会の信頼を大きく損なうものである。

第3 審議過程の問題点
 特定秘密保護法は、上述のような重要な問題点を含んでいるにもかかわらず、審議に必要な時間を充てることをせず、むしろ、会期のみに意を用いて審議期間を定めるという、審議内容とは無関係の都合で決められた本末転倒の審議日程において、衆参両院とも強行採決により可決され成立したものである。討論と説得という民主主義の過程とはおよそかけ離れた手続きにおいて成立した法律であって、我が国の憲政史上に禍根を残す欠陥法であるとの誹りを免れない。

第4 結論
 以上のように、特定秘密保護法の成立は、内容においても手続きにおいても国民主権・民主主義の理念を踏みにじるものである。
 当会は、国の安全、外交、公共の安全及び秩序の維持の分野を対象として広く秘密を設け、その漏えいに対する重罰化を図る法律の立案作業が進行していることが明らかになってきた状況下において、2012年(平成24年)9月26日にこれに反対する会長声明を発表し、その立案が「特定秘密の保護に関する法律案」として具体化した後は2013年(平成25年)11月28日にこれに反対する会長声明を発表してきた。ところが、衆参両院で相次いで強行採決がなされ、特定秘密保護法は成立した。そこで、2013年(平成25年)12月12日、特定秘密保護法の成立に抗議する会長声明も発した。
 よって、当会は、改めて特定秘密保護法の廃止を強く求めるものである。


以上のとおり、決議する。

2014年(平成26年)2月22日
栃木県弁護士会総会