栃木県弁護士会からのお知らせ

「特定秘密の保護に関する法律案」に反対する会長声明

 2013年(平成25年)11月26目,「特定秘密の保護に関する法律案」(以下,「法律案」という。)が衆議院で強行採決された。
 当会は,昨年9月26日に「秘密保全法制定に反対する会長声明」で秘密保全法制定に反対する意見を表明したが,強行採決された法律案の内容は,その声明において示した懸念を十分に考慮しておらず,次のように憲法上の権利を侵害し原理を蔑ろにする問題点を多々含んでいる。
1 「特定秘密」の範囲が広範に過ぎ,不明確であること
 法律案は,「特定秘密」の範囲を)姫辧き外交,F団衢害活動の防止及びぅ謄蹈螢坤爐遼瓢澆裡簡野とするが,防衛の分野などは,「特定秘密」として指定し得る事項が自衛隊法別表第4と同様で,防衛省の所掌事務をすべて網羅するように挙示され,列挙による限定はないに等しい。他の分野でも,「特定秘密」概念は広範に過ぎる。のみならず,「その他の重要な情報」あるいは「その他」などという拡大解釈の可能な不明確な文言を用いている。このように,「特定秘密」概念は,広範に過ぎる上に不明確である。
 また,法律案は,特定秘密を指定することは行政機関の長の専権とする。他方でこれを規制するために,統一的な運用を図るための基準を定め,その基準の定立・変更には「優れた識見を有する者の意見を聴かなければならない」とするが,これは抽象的な運用基準にすぎない。指定された情報が実質的に「特に秘匿することが必要であるもの」か否か検証する仕組みはない。これでは,行政機関による恣意的運用を防ぐことができず,特に秘匿することが必要でない情報まで主権者たる国民に知らされない結果となり,国民の知る権利を侵害する危険が大きい。

2 適性評価がプライバシーを侵害するおそれが強いこと
 情報の管理は,情報保全システムなど物的管理の充実によって図ることが可能である。ところが,法律案は,情報の管理において特定秘密取扱い者の適性評価−人的管理−を行うものとしている。この適性評価は,調査事項が広範囲にわたっている上,精神疾患に関する事項や信用状態その他の経済的な状況に関する事項など機微にわたる事項まで含まれていて,その調査によりプライバシーが侵害されるおそれが強い。また,調査事項のうち,「我が国及び国民の安全を著しく害し,又は害するおそれのあるもの」(特定有害活動)という文言は抽象的であり,その抽象性ゆえに行政機関の長又は警察本部長の恣意的判断によって,個人の政治活動や組合活動,更には思想・信条にまで踏み込んだ調査がなされる危険性も否定できない。
3 罰則による人権の制約が過度であること
 (1)特定秘密の取得行為の処罰
 法律案は,特定秘密の取得行為について,欺く行為や暴行などを例示して保有者の管理を害する行為による取得を処罰するものとする。しかし,「管理を害する行為」の内容は,この例示によってもなお不明確である。これは,罪刑法定主義に反する。
 また,このような不明確な概念で取得行為を処罰することは,報道機関の取材活動を萎縮させ,ひいては国民の知る権利を侵害することになる。
 (2)未遂,過失の処罰
 法律案は,特定秘密の漏えいと取得の双方について未遂を処罰し,漏えいは過失による場合も処罰するものとする。しかし,特定秘密概念の過度の広範性・不明確性は,何か実行行為に当たるか,どの情報の漏えいを避けるべき注意義務を課されるか,明示し得ない。未遂や過失による場合も処罰することも,処罰範囲の外延を不明確にし,罪刑法定主義に反する。
 (3)共謀,教唆又は煽動の処罰
 法律案は,共謀,教唆又は煽動をも処罰するものとする。共謀の処罰は行為責任主義に反し,何らの実害も生じていない独立教唆を処罰することは甚だ疑問である。煽動については,目的要件を付加し方法も明示して限定している破壊活動防止法第4条と比べても,法律案は限定のない「煽動」をそのまま処罰の対象とするもので,国民の表現活動を著しく制約する。

4 国会の最高機関性を損なうこと
 法律案では,国会にも特定秘密が提供され得ることにはなっているが,“詭会であること,知る者の範囲を制限すること,L榲外に利用されないようにすること,だ令で定める措置を講じること,ツ鷆仝気砲いて「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めること」という厳しい条件が付されており,しかもイ郎能的には行政機関の長の裁量判断に係ることになっている。これは,国会が行政をコントロールする議院内閣制の仕組みや国会の最高機関性(憲法第41条)を否定するに等しいものである。
5 付加条項では不十分であること
 なお,法律案には新たに「国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず,国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない。」という条項が付加されたが,これは抽象的な訓示規定にすぎず,叙上の問題点を払拭し得るものではない。

 以上の点に加えて,国際連合,人及び人民の権利に関するアフリカ委員会,米州機構等世界70か国以上の専門家により,本年6月12日、南アフリカ共和国のツワネで公表された「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(ツワネ原則)との整合性についても全く検討されておらず,国際社会のスタンダードを蔑ろにするものとの誹りを免れない。そして、この法律案に対し各界や国民から多数の反対意見が公表されている中,これを顧みずにわずか20日間ほどの審議で強行採決した政府の暴挙に強く抗議する。
 よって,当会は,特定秘密の保護に関する法律の制定に強く反対する。
2013年(平成25年)11月28日
栃木県弁護土会
会長  橋 本 賢 二 郎