栃木県弁護士会からのお知らせ

「栃木県環境影響評価条例」に対する意見書

2013年(平成25年)1月30日
栃木県弁護士会    


意見書提出にあたって

 環境アセスメント(環境影響評価)制度は、1969年のアメリカ国家環境政策法(National Environmental Policy Act(NEPA))を皮切りに先進国を中心に環境悪化を未然に防止する制度として導入されてきた。日本においては立法が遅れて地方自治体での取組が先行し、ようやく1997年に至って環境影響評価法が成立し、同法は1999年6月完全施行され、国法レベルでの環境アセスメント制度が導入されるに至った。そして、同法附則の施行後10年経過時の見直し規定に基づき、2011年4月改正環境影響評価法が成立・公布された。それに伴い、現在栃木県で栃木県環境影響評価条例改正について検討がなされているところである。
 栃木県弁護士会では、1991年3月16日付で「栃木県環境影響評価実施要綱」に対する意見書を公表し、同年4月1日から実施される予定であった栃木県環境影響評価実施要綱に対し意見を述べた。さらに環境影響評価法が施行されるのに伴い栃木県が策定を進めていた栃木県環境影響評価条例に対し、1999年1月11日付で「『栃木県環境影響評価条例』制定にあたっての意見書」を公表し、よりよい環境影響評価制度の構築を求めてきた。
 しかしながら、従来の栃木県環境影響評価条例の内容は十分なものとはいえず、環境影響評価の実施された事業は2011年度で方法書1件及び準備書1件のみ、通算でもわずか9件に留まっている。
 他方、自然豊かな美しい栃木県の環境を将来の世代にしっかりと引き継いでいくことが責務であることは、栃木県環境基本計画の目標とされ、2012年度栃木県環境白書の序文で県知事も述べるところである。
 そして、環境アセスメント制度は、開発行為等により環境に一定の影響を及ぼすことが考えられる場合に、その影響について十分な調査、予測及び評価を行い、環境に対する影響を最小限に留めるための制度である。いわば、良好な環境を将来の世代に引き継ぐための基盤となる制度であり、それゆえに環境基本計画においても、共通的基盤的施策の展開の最初の項目として環境影響評価の推進が謳われている。
 したがって、栃木県環境影響評価条例の改正に当たっても、環境影響評価実施の対象を拡大するとともに、戦略的アセスメント制度等、改正環境影響評価法が新たに取り入れた制度を条例にも積極的に導入するのはもちろん、同法では不足する点については、県の裁量の範囲で実効性ある制度を設けることが必要である。現行制度を環境保全の観点で後退させるものであってはならないことは、言うまでもない。
 このような観点から、当会は、下記のとおり栃木県環境影響評価条例を改正するべきであるとして意見を述べる。



1 計画段階環境配慮書手続きの創設
 (1)意見の趣旨
 /靴燭坊弉菽奮における戦略的環境アセスメント制度を導入する。
◆‖仂櫃箸垢觀弉茲涼奮については、「事業の位置、規模又は施設の配置、構造等の検討段階」ではなく、「政策、計画、プログラム(施策)などの立案段階」からとする。

 (2)意見の理由
ア 戦略的環境アセスメント(Strategic Environment Assessment 以下「SEA」という。)とは、個別の事業に先立つ「戦略的な意思決定段階」、すなわち事業の実施に枠組みを与えることになるプラン(計画)、さらには政策を対象とする環境影響評価のことをいう。事業アセスメントは、〇業段階では、環境影響の緩和措置を取ることができる範囲が狭すぎること、∋業自体の必要性が問題となっても、上位段階の意思決定が終わっているため、改めて必要性の検討が行い難く、事業の中止がきわめて困難であること、4超影響の累積に対処できないこと、などから、それのみで十分な環境配慮は難しい。そのため、より上位の意思決定段階でのアセスメントは、「環境の保全について適正な配慮」として必要不可欠なものである。
 現に衆議院環境委員会(1997年4月25日)においても、「上位計画や政策における環境配慮を徹底するため、戦略的環境影響評価についての調査・研究を推進し、国際的動向や我が国での現状を踏まえて、制度化に向けて早急に具体的な検討を進めること」との付帯決議がなされ、また2008年6月に成立した生物多様性基本法25条では、「一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であることから、生物の多様性に影響を及ぼす事業の実施に先立つ早い段階での配慮が重要であることにかんがみ、(略)その事業に関する計画の立案の段階から」影響評価を行うこととされている。
 これらの状況を踏まえ、環境影響評価法(以下「法」という。)においても、日本版SEAとして、配慮書手続が導入されており、栃木県環境評価条例(以下「条例」という。)においても、配慮書手続を導入するべきである。

イ もっとも、法における配慮書手続については、その内容は不十分なものにとどまっている。
すなわち、法3条の3は、第一種事業を行う場合にのみ配慮書作成を義務付け、第二種事業においては任意にとどめている。しかしながら、このような限定は、SEAの目的とする環境に配慮した意思決定の徹底を図ることができない。SEAは、環境に著しい影響を与え得る事業の策定・実施に当たって、環境への配慮を意思決定に統合するものである以上、人間環境の保護及び生物多様性の保全に重大な環境影響が生じるおそれのある事業すべてを対象とする必要がある。環境アセスメントの対象を規模で制限することが妥当でないことは、後述の「対象事業とスクリーニング」の項にて詳述するが、その理はSEAについてもそのままあてはまることになる。
 さらに、後述ウ記載のとおり、SEAは、政策、計画、プログラム(施策)などの立案段階において行われるべきものであり、この段階において明確に規模を想定できるほど計画が具体化していないことからも、対象の規模でSEAの要否を決めることは妥当ではない。
 そのため、条例の対象事業が第二種事業よりも小規模であるとして条例にSEAを導入しないことは妥当ではなく、対象事業については、明らかに環境に与える影響がないと考えられる事業についてのみ除外リストを設ける外は、その種類、規模を限定せず、条例の対象となる事業すべてとするべきである。

ウ また、法3条の2は「計画の立案の段階において」配慮書作成を義務付けているものの、その段階は「事業の位置、規模又は施設の配置、構造等の検討段階」(2010年3月31日の環境大臣答弁)を対象とするのだと説明されている。
 そのため、計画段階とはいっても、事業の位置、規模又は施設の配置、構造等が具体的になっているプログラム(施策)段階において行われるものであって、法で要求されている事業段階と時期としてほとんど変わらず、事業アセスメントの問題点を十分に解消することはできない。SEAは、諸外国等で実施されている個別の事業の計画・実施に枠組みを与えることになる上位の計画や政策の検討段階を対象として環境配慮の枠組みを与える制度であるべきであり、実施時期は、「政策、計画、プログラム(施策)などの立案段階」とする必要がある。
 実際に、例えば埼玉県においては、実施時期を「対象計画等の原案において位置、用地形状・施設整備又は土地利用の計画等が検討でき、環境影響の回避・低減を図る上で最も適切な段階」と法よりも前段階で行うことを定めて(埼玉県戦略的環境影響評価技術指針第2、1参照)、実効性を高めている。
 栃木県は、2009年に環境立県戦略を策定し、その中で「清らかで美しい自然と共生し、豊かな資源や環境・エネルギー技術の活用により、持続的に成長・発展する社会」を目指すべき社会と位置づけるなど、環境保全を重大な政策と位置付けており、不十分な改正法を無批判に取り入れるべきではない。むしろ、より実効性のある政策、計画、プログラム(施策)などの立案段階における戦略的環境アセスメント手続を積極的に導入する方が、県の政策に合致する。


2 対象事業とスクリーニング
(1)意見の趣旨
 ‖仂飮業の範囲を定めている事業の種類、規模の各要件を見直して、種類、規模等を限定することはせずに、包括的に「現在及び将来世代の人間環境の保護及び生物多様性の保全に重大な環境影響が生じるおそれのある事業」を広く対象とすべきである。
 その上で、事業の内容等からして明らかに環境に与える影響がないと考えられる事業については、除外リストを定めて対象事業から外し、除外リストに該当しない事業については、詳細な環境アセスメントを実施するか否かを判断するためのスクリーニングの制度を設けるべきである。
◆.好リーニング手続については、事業内容の公表等の徹底した情報公開を行った上で、関係市町村、関係地域の住民及び審査会が意見を述べる機会を保障するべきである。
 スクリーニングの判断結果及び理由を公表する等その判断の適正さを担保する手続を定めるとともに、関係地域の住民が判断結果に対する不服申立てをすることができるようにするべきである。
 仮に、対象事業の範囲を事業の種類、規模によって限定する制度を維持するとしても、規模の要件については、普通地域、配慮地域及び特別配慮地域の地域要件を撤廃したうえで、すべての地域について、少なくとも、別表記載の「事業の種類」ごとに、対応する同表記載の「規模の要件」の程度にまで引き下げるべきである。

(2)意見の理由
ア 環境アセスメントの目的は、現在及び将来世代の人間環境の保護及び生物多様性の保全に向けた適正な環境配慮とその実効性の確保にある。この観点からみると、現在の条例及び規則が定める対象事業の範囲は狭すぎて、対象事業とすべき事業のすべてをカバーしていない。
 このことは、条例の施行後、条例に基づく環境アセスメントの実施件数が極めて限られた件数にとどまっていることからも明らかである。
 そもそも、事業が環境に与える影響は、個々の事業の内容、規模、事業が実施される地域の状況(地域の環境構成要素・特性等)に応じて異なるものであり、特定業種の一定規模以上の事業が環境に重要な影響を与え、それ以外の事業であれば環境に重要な影響を与えないということはない。
 また、対象事業を規模により定めれば、その既定の下限に近い大きさの事業を計画する主体には、規模を若干小さくして環境アセスメントを逃れようとする気持ちが生まれる。このような「アセス逃れ」は、現在の条例及び規則が定める対象事業の規模を引き下げても防ぐことはできない。
 以上によれば、対象事業については、明らかに環境に与える影響がないと考えられる事業についてのみ除外リストを設ける外は、その種類、規模を限定せず、すべての事業を対象とし、スクリーニング(Screening 環境アセスメントの対象事業か否かを振り分ける手続き。)手続を定めて、個別的に環境に与える影響を判断することが、環境アセスメントの目的に合致するのである。
イ 環境アセスメントは、事業が環境に与える影響を事前に防止するため、予測、評価の情報を、その影響を受ける関係者に伝えたうえで、彼らの意向を把握し、事業や計画の意思決定に反映させる手続である。そして、環境の変化による影響を最も強く受けるのは地域住民であり、環境影響を及ぼすおそれのある事業につき詳細な環境アセスメントを実施するかどうかは、関係市町村、関係地域の住民にとって重大な関心事であることから、スクリーニング手続においても、関係市町村、関係地域の住民の意見提出権を保障するべきである。住民が意見を述べるためには、判断に必要な情報を十分持たなければならないから、徹底した情報公開がされなければならないのは当然である。
 また、事業が環境に与える影響の有無、大小を判断するには専門性も必要とされることから、審査会が意見を述べる機会も保障すべきである。
 事業について詳細な環境アセスメントを実施するか否かの判断は、適正かつ公正に行われなければならないから、手続の透明性を確保し、判断の適正さを担保するため、スクリーニングの判断結果及び理由を公表するなどの手続を定めるべきである。また、関係地域の住民が、スクリーニングの判断結果の是正を求めて不服申立てをすることができるようにすべきである。
ウ 仮に、対象事業の範囲を事業の種類、規模によって限定する制度を維持する場合であっても、上記のように、現在の条例及び規則が定める対象事業の範囲は狭過ぎることが明らかである。
 したがって、少なくとも他の都道府県の条例が定めている規模要件のうち、最も対象範囲が広いものと同程度の規模には、引き下げるべきである。
 また、事業が環境に与える影響は、個々のケースに応じて異なり、特定の地域ごとに類型化することが困難であるから、環境アセスメントの対象にするかどうかという段階では、地域に関わらず、幅広い範囲の事業を対象にしたうえで、地域的な特性については、環境アセスメントの手続きの中で配慮することが望ましい。したがって、普通地域、配慮地域及び特別配慮地域の地域要件については、撤廃すべきである。


3 配慮書
(1)意見の趣旨
 〇業を実施しようとする者は、計画の立案段階で事業に係る環境保全のために配慮すべき事項について検討を行う。
◆〇業を実施しようとする者は、「計画段階環境配慮書」(配慮書)を作成し、知事に提出するとともに、配慮書とその要約を公表する。
 知事は配慮書の写しを市町村長に送付する。
ぁ〇業を実施しようとする者は、関係する行政機関及び住民から、配慮書について環境保全の見地からの意見を求めるよう努める。
ァ|了は、事業を実施しようとする者に対して、報告・資料の提出を要請することができるものとする。
Α|了は、技術審査会へ諮問し、その答申を踏まえて、事業を実施しようとする者に対して、環境保全の見地からの意見を述べる ものとする。

(2)意見の理由
 前述したように、戦略的環境アセスメントは「環境の保全について適正な配慮」として必要不可欠なものであることから、条例においてもこの制度を導入するべきである。その場合に必要となるのが、計画段階環境配慮書(以下「配慮書」という)の手続きである。そして、この段階でも住民意見を十分に事業計画に反映させることが重要であるため、住民(これ以下でいう「住民」とは県民を指すのではなく、国籍・居住地・年齢にとらわれない「何人」という意味で用いる。)意見の受付と配意を行う制度とするべきである。
 また、配慮書の段階において環境保全について適正な配慮がなされることを十分に確保するためには、専門機関である技術審査会の専門的・技術的判断及びこれを踏まえた知事の意見を配慮書手続に反映させる必要がある。したがって、知事は配慮書の段階においても技術審査会へ諮問し、その答申を踏まえて意見を述べる制度とするべきである。そして、技術審査会の答申、知事の意見を実質的なものとするために、これらの前提として配慮書についての報告・資料が知事及び技術審査会に提出されなければならず、知事は、事業を実施しようとする者に対して、報告・資料の提出を要請することができるものとするべきである。


4 方法書
(1)意見の趣旨
 (法書作成前の調査
 事業者が方法書作成前に環境を改変するおそれのある調査を行うことを明文で禁止するものとする。
◆‖綢悵
 方法書作成の段階から、ノーアクション案を含む合理的な範囲の代替案の検討を義務づけ、その検討結果の比較が可能な形式で各代替案を明記するものとする。
 方法書記載内容の充実
 方法書に記載された事業の特定が不十分であるために、環境要素の特定ができず当該事業の環境への影響を調査・予測・評価することができない場合、事業者に対し、方法書を差し戻し、方法書を再提出するものとする。
ぁ〕很鷭
 事業者が方法書を知事に提出する場合には、方法書を要約した書類(要約書)をも提出するものとする。
ァ仝聴会
 知事は、方法書段階についても公聴会を開催するものとする。
Α^娶の公表、見解書
 知事は、方法書に対して意見を有する者の意見を公表するものとし、事業者は調査着手前に上記意見に対する事業者の見解を公表するものとする。

(2)意見の理由
ア スコーピング(Scoping 環境アセスメントにおいて、手法、方法等、評価の枠組みを決める方法書を確定させるための手続き。)の意義は、専門家、地域住民、地方公共団体から事業者に対して、データや地域特性等に基づく調査手法の提案などが提示されることにより、事業者がより効率的でメリハリのきいた環境アセスメントを行うと共に、事業計画の早期の段階で住民等の懸念・要望や地方公共団体の環境保全の観点からの意見が示されることで、早い時期から環境配慮を事業計画に組み入れさせることにある。
 このようなスコーピングの意義からすれば、調査は方法書作成手続の終了後になされるべきだが、事業者が同手続に先立ち調査に着手すれば、方法書作成手続は形骸化し、地域住民等が意見を述べる機会も奪われるだけでなく、調査自体が環境を攪乱し評価の対象とすべき環境を改変してしまうおそれがある。したがって、方法書作成手続に先立って、事業者が環境を改変するおそれのある調査を行うことを禁止し、方法書作成手続の実効性を確保するべきである。

イ 代替案の検討は、合理的な意思決定のために不可欠なものであり、方法書段階からの代替案の検討は効率的でメリハリのある環境アセスメントの実施に不可欠である。そこで、方法書段階から代替案を提示することが事業者の義務であることを明記し、事業の目的を達成する他の手段・方法に関する複数案、工期・工法・費用・場所等に関する複数案、各複数案について環境保全措置を講じた案、調査・予測・評価の手法に係る代替案、何もしない案、環境に最も好ましい案、事業者の選好する案等の代替案を、比較検討が可能な形式で明記することにすべきである。
ウ スコーピングの意義からすれば、方法書において事業内容と環境要素が確定されていなければ、環境への影響を調査・予測・評価する手法を確立することはできず、方法書に記載された手法を検証することもできない。したがって、方法書に記載された事業の特定が不十分であるために、当該事業の環境影響の調査・予測・評価ができない場合には、事業者に対し、方法書を差し戻し、方法書を再提出させる制度とすべきである。
エ 方法書段階において住民の意見を十分に反映させるためには、方法書の記載内容が専門的知識のない一般市民にも了解可能でなければならない。そのためには方法書についても要約書の提出を義務とすることで、住民の理解に資するようにするべきである。
オ 条例において、準備書段階では公聴会の開催が規定されているが、方法書段階での公聴会の開催は規定されていない。方法書段階での住民意見反映の重要性に鑑みれば、方法書段階においても、多層的・多角的に住民意見を受けることが必要であり、公聴会を開催するべきである。
カ 環境アセスメントの本質は、意思決定過程の透明化による適切な環境配慮にあるから、方法書について寄せられた意見は十分に周知されなければならず、また、その意見についての事業者の見解もまた十分に周知されなければならない。したがって、知事は、方法書に対して意見を有するものの意見を公表し、事業者は当該意見に対する見解を公表するものとするべきである。


5 横断条項
(1)意見の趣旨
条例26条を下記のとおり、改正すべきである。
(許認可等に当たっての配慮等)
第26条 知事は、対象事業に係る許可、認可その他これらに類する行為(以下「許認可等」という。)の権限を有する場合において、当該許認可等を行うときは、当該対象事業に係る評価書に記載された事項の検討を許認可等の条件として、環境影響評価の結果を許認可等に適切に反映させるものとする。
2 知事は、対象事業に係る許認可等の権限を有する者が知事以外の者である場合には、当該権限を有する者に対し、当該対象事業に係る評価書を送付し、当該権限を有する者が当該許認可等を行うに当たり環境の保全の見地から評価書に記載された事項の検討を許認可等の条件とすることを要請しなければならない。
3 前項の規定に関し、知事は、当該権限を有する者が、要請に応じない場合には、当該権限を有する者に対して、評価書に記載された事項についての協議を求めなければならない。


(2)意見の理由
ア 行政の環境配慮の観点から最も重要なのが、評価書及びそれについて述べられた意見に対する事業者の対応を踏まえて、対象事業が環境保全に適正な配慮をしているかどうかを審査してそれを行政決定に反映する実体的仕組みである。条例は、環境影響評価の結果と対象事業の許認可等を直結しておらず、知事は、当該許認可等の判断をするに際し評価書に基づき、自らが許認可権者になる場合には「十分配慮する」、許認可権者が知事以外の場合には「配慮するよう要請する」にとどまる。このような消極的な姿勢では、環境影響評価手続において環境配慮を十分に行ったとしても、その結果を確実に実施させる制度的保障がない。そこで、上記意見の趣旨どおりの条例改正を行うことによって、許認可等を判断するに際し、評価書記載の事項を検討していなければ要考慮事項の欠落、つまりは行政権の逸脱濫用となり、結果的に環境アセスメントの結果に拘束力をもたせることとなることから、環境影響評価書に記載された事項の検討を許認可等の条件とすべきである。
イ 知事が許認可等の権限を有する場合には、1項が適用され、他方、知事以外の者が許認可等の権限を有する場合には、2項及び3項が適用される。知事以外の者が許認可等の権限を有する場合においても、環境アセスメントの結果を対象事業の許認可等に反映させるべきであることから、許認可等の権限を有する者に対する要請義務、要請に応じない場合には協議することを定め、環境アセスメントをしたことの実効性を確保すべきである。

6 条例42条の対象
(1)意見の趣旨
条例42条1項を削除すべきである。
(2)意見の理由
ア 条例の適用除外について規定する条例42条1項は、法52条1項と同様の規定となっている。
これらの規定により放射性物質による大気の汚染、水質の汚濁及び土壌の汚染が適用除外とされる根拠は、原子力基本法体系の中で、周辺環境や周辺住民、原子力施設の従事者への保安・安全対策が講じられることとされており、原子力安全規制の観点からの影響評価が行われていることにある。また、法や条例が制定された当時、環境基本法13条において、放射性物質による大気汚染等は環境基本法体系の中から適用除外とされていたことも根拠の1つである。
イ ところが、2011年3月に発生した東日本大震災により、原子力の抱えるリスクが顕在化した。特に、放射性物質による環境汚染に社会的関心が高まっており、放射性物質の周辺環境に与える影響を原子力安全規制の観点からの評価に委ねるだけでなく、環境保全の観点からの環境アセスメントも行う必要が生じている。
 また、環境基本法13条は 、2012年の法改正で削除された。これにより、従来は環境基本法体系の中から適用除外とされていた放射性物質による大気汚染等について、環境基本法20条に基づき環境基本法体系の中で環境影響評価すべきことが明確になった。
ウ そのため、法52条1項は今後見直す必要が生じており、これと同様の規定である条例42条1項も環境基本法の基本理念に従って見直されるべきである。
  現在のところ、福島県や群馬県などの近隣の県を含めて、22都府県では放射性物質による大気汚染等の適用除外規定は存在しない。そして、栃木県では「とちぎ環境立県戦略」を策定し、地域一体となって環境保全を推進しているのであるから、栃木県においても、放射性物質による大気汚染等の環境アセスメントを行っていくべきである。


7 事後調査・報告書
(1)意見の趣旨
 |了は、事業者に対し、事後調査の資料の提出を要請することができるものとする。
◆|了は、事業者から提出された報告書・資料について公告し、縦覧に供するものとする。
 知事は、事業者が作成し提出した報告書について、技術審査会へ諮問するものとする。
ぁ|了は、報告書に関する住民の意見を受け付けるものとする。
ァ|了は、事業者に対し、技術審査会の答申を踏まえ、かつ住民意見に配意して、事業者に対して環境保全措置への意見を述べるものとする。
Α|了は、知事が当該事業に係る許認可等の権限を有し、かつ事後調査の結果環境保全措置の実施を含む環境アセスメントの誤りが明らかになった場合には、たとえ事業実施後であっても、事業者に対して、当該事業の停止や原状回復を命じるなどの是正措置を講じることができるものとする。

(2)意見の理由
 条例は、事業者に対し、事後調査を義務づけているものの、知事や住民の報告書手続への関与について十分な規定を設けていない。これでは、報告書手続の実効性、ひいては環境影響評価手続そのものの実効性を確保することができず、問題である。
 そこで、知事の報告書手続への関与を一層深めるとともに、報告書段階でも住民意見を十分に反映する制度とするべきである。
 また、環境アセスメントの実効性を確保するためには、知事に事後的な措置を講じる権限を与えることが必要である。
 この点条例は、事業者が虚偽の記載をした各種書面を提出したとき、知事は必要な措置を講じるよう勧告することができ、事業者が正当な理由なく勧告に従わないときは勧告の内容を公表ができると規定しているに過ぎない(条例39条1項2号、2項)。これらの規定は、環境アセスメントの実効性を確保するための事後的な措置として必ずしも十分ではない。
 そこで、環境アセスメントに誤りがあった場合の知事の対象事業に対する規制権限を強化することで、環境アセスメントの実効性を高める必要がある。具体的には、知事に、たとえ事業実施後であっても、事業者に対して、事業停止や原状回復を命じたりするなど、是正措置を講じることができる権限を付与するべきである。


8 インターネット利用等による公表
(1)意見の趣旨
 環境アセスメントの各段階において各種書面を公告・縦覧に供する方法としては、事業者において、インターネットなど一般住民からアクセスしやすい媒体を活用する制度とする。
(2)意見の理由
 環境アセスメントにおいて、住民参加が重要であることはいうまでもない。そして真に住民参加を実現するためには、情報の公開が必要である。
 条例でも、各種書面の公告・縦覧が義務づけられており、一定の役割を果たしている。
 しかし、現状では、住民が各種書面にアクセスするためには、住民が平日の日中に縦覧場所に出向く必要があり、そうすると、各種書面にアクセスできる住民は限られてしまう。そこで、各種書面の公告・縦覧に供する方法として、さらに一般住民からアクセスがしやすい媒体の活用を図るべきである。
 たとえば、インターネットを利用して各種書面を公告・縦覧できるようにすれば、多くの住民が平日の日中に縦覧場所まで出向くことなく、各種書面にアクセスすることができる。インターネットが普及している現状では、事業者にインターネットでの公告・縦覧を義務づけたとしても過度な負担を課すものではない。
 そこで、事業者に対して、各種書面をインターネットを利用して公告・縦覧するように義務づけるべきである。


9 技術審査会の改革
(1)意見の趣旨
 /該魂颪琉儖については、事業者・許認可権者やその関係者など利害関係者を除き、学者、技術者、法律家など各分野の専門家を中心に幅広く人選すること。委員の選任については、情報公開し、選任過程を透明化すること。
◆)‖仂飮業、独自対象事業を問わず、各手続段階ごとに知事は必要的に審査会から意見聴取するものとすること。すなわち、方法書や準備書の手続はもとよりスクリーニング段階、評価書段階、事後調査段階についても審査会の意見を聴取するものとすること。
 審査会に対して、個別案件に対する諮問がなくとも環境問題につき、一般的に意見を述べられる地位や権限を与えること。
ぁ/該魂颪法関係者に対する釈明権や調査権を認めること。
ァ/該魂颪琉娶について、知事は最大限尊重することを義務付けること。
Α/該魂颪砲ける議事については、詳細かつ分かりやすい議事録を作成するとともに、議事や議事録、配布資料については原則として公開すること。

(2)意見の理由
ア 栃木県環境影響評価技術審査会(以下「審査会」という)は、条例により設置が義務化され、その組織は専門家を中心とした人選となった(条例36条)。
 しかし、条例では審査会の組織を専門家中心としたものの、いかなる立場にある専門家で組織するのかやその選任過程などについては詳細な規定がない。そのため専門家という理由だけで恣意的に審査会が組織されたのでは、環境影響評価等にかかる技術的事項の調査・審議を適正かつ公正に行うことが出来ないおそれがあり、審査会の設置を義務づけたとしても、審査会が名ばかりのものになってしまう。
 中立性の確保の点からは直接の事業者・許認可権者やその関係者など利害関係人は除かれるべきであるが、また単なる専門家にとどまらず、総合的かつ法的な観点からの意見を述べられる法律家、特に環境問題に造詣の深い弁護士会からの推薦を受けた弁護士の関与をさせるべきである。
 なお、専門性の観点からは公募により委員を選定することには慎重になるべきではあるが、公正や公平性の観点からは公募による委員選定も考えられてよいといえる。
 そして、委員選定の公正や適正さを担保するために、その選任については情報公開をし、透明化を図ることが必要である。
イ 次に、審査会の役割として、条例においては「知事が技術指針を定め、または変更するときには、審査会の意見を聴かなければならない」(条例4条2項)、「知事が方法書について、環境保全の見地から意見を述べる際は、審査会の意見を聴くものとする」(条例8条4項)、「知事が準備書について、環境保全の見地から意見を述べる際は、審査会の意見を聴くものとする」(条例16条2項)としか規定されておらず、審査会の関与の程度が限定されていると言わざるを得ない。
 専門機関である審査会がその専門的・技術的判断を事業計画に適切に反映させ、環境保全について適正な配慮がなされることを確保するためには、審査会の関与の範囲を幅広く認める必要がある。
 そのため、環境アセスメントの核となる方法書や準備書の手続きの際に、審査会の意見を聴くことは当然であるが、環境の保全はそれにとどまらないのであり、計画段階、環境アセスメントの対象にするか否かを決定する段階から、そして実際に事業が始まった後の事後的チェックの段階においても審査会の意見を聴くことが望まれる。
 したがって、各段階において常に審査会のチェックを受けながら実施されるような規定にすべきである。
ウ さらに進んで、審査会は単に知事に意見を求められて調査し、意見を述べるというような受動的な活動のみならず、広く環境問題全般につき自主的に調査し、意見を述べられるような機関とすべきである。
エ 審査会の意見を聴くといっても、その前提として審査会に調査をする権限や関係者に事実を確認する権限がなければ、審査会は適切な意見を述べることができない。
 そのため、審査会の釈明権、調査権についての規定が必要である。
オ また、審査会から優れた意見が出されたとしても、その意見に知事が従う必要がないというのであれば制度が骨抜きになってしまう。
 したがって、審査会の意見に対する一定の拘束力が認められるべきであり、知事には審査会の意見を最大限尊重することを義務付けるようにすべきである。
カ さらに、広く住民が審査会の活動や役割について知り、審査会が住民の支持のもと職務を行えるようにするために、広く審査会の情報を公開しなければならない。
 また、事後的に審査会の議事を評価できるよう、詳細かつ分かりやすい議事録が作成される必要がある。さらには議事録だけでなく、議事や配布資料も公開されるべきである。
 この点、議事の開催結果については、栃木県のホームページ上に一応掲載されてはいるが、極めて簡易なものであり、詳細かつ分かりやすい内容とは程遠いものであり、改正が望まれる。