栃木県弁護士会からのお知らせ

「社会保障・税共通番号制」法案に反対する会長声明

 本年2月14日は、政府は、「社会保障・税共通番号制」にかかる法律案(正式名称「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」、通称「マイナンバー法案」)を国会に提出した。
 
 同法案は、全ての国民と外国人住民に対して、税の分野で納税者を特定する納税者番号を新たに付し、社会保障分野の番号と共通の識別番号(マイナンバー)とすることで、個人のデータを情報提供ネットワークシステムを通じて名寄せ・統合(データマッチング)することを可能にする制度(社会保障・税共通番号制)を創設しようとするものであり、その主たる目的は行政運営の効率向上にある(法律第1条)。
 
 しかしながら、上記法案には、憲法によって保障されるプライバシー権保護の観点からは看過しえない以下の重大な問題点が含まれている。
 
 すなわち、上記法案により創設される社会保障・税共通番号制度のもとでマッチングが想定されている各行政分野(税務、年金、医療、介護保険、福祉、労働)の情報は、個人の私生活全般に広く及ぶものであるが、その中には病歴を含む医療情報などのセンシティブ情報や、公的支援制度の利用歴を含む所得・資産といった財産情報なども含まれており、制度の運用如何によっては、前科・前歴などの犯罪情報までも個人に割り当てられた共通番号にマッチングされ、その番号によって検索が可能となる。そのため、このような制度が創設されると、国家による個人情報等の一元管理化の傾向が進み、本制度が国民監視の道具として濫用されるおそれも無視できない。
 
 また、情報漏洩が起きた場合には、個人情報等の一元管理化が進んでいればこそいわば芋づる式に関連情報が漏洩され、それが過失による場合であっても、重要な個人情報が広範に拡散しかねない。特に、高度に情報化された現代社会においては、ひとたび個人情報が漏洩すれば、インターネットを介して情報が拡散し、インターネット上に漏洩した情報を完全に削除することは不可能であることから、回復困難な損害が発生する危険も生じる。
 
 さらに、共通番号は行政機関だけでなく民間においても利用され、かつ、個々人に割り当てられる共通番号は公開が前提となっているため、いわゆる「なりすまし」によって悪用される等の深刻な経済的被害も懸念される。
 
 このように、上記法案にはプライバシー権侵害の危険が内包されている。
 
 他方で、上記法案においても、第三者機関(個人番号情報保護委員会)による監視・監督(法案第31条以下)や罰則(同第62条以下)により、プライバシー権保護に対する一定の配慮を示してはいる。しかしながら、前述のような被害の甚大性、被害回復の困難性に鑑みれば、第三者機関による監視・監督や罰則による事後的な措置によっては、プライバシー権の保護としては不十分である。
 
 また、上記法案に内包されるプライバシー権侵害の危険性が広く国民に認知されているとは言い難く、社会保障・税共通番号制の導入・維持のためにどの程度の費用がかかるかという点についても国民に対して資料が提供されていないため、十分な国民的議論が尽くされていない。
 
 このように、上記法案は、基本的人権のうちでも最も枢要なものの一つであるプライバシー権を危殆に瀕せしむる制度を創設しようとするものであり、拙速な法律化は、将来に重大な禍根を残すことになる。
 
 よって、当会は、同法案に強く反対するものである。

2012年(平成24年)6月20日
栃木県弁護士会
会 長 蓬 田 勝 美