栃木県弁護士会からのお知らせ

地方消費者行政の充実・強化に対する国の支援に関する意見書

2011年(平成23年)11月10日
栃木県弁護士会

第1 意見の趣旨
1 消費者委員会は,消費者庁が検討すべき地方消費者行政の充実・強化に向けた国の支援について,財政面では,地方消費者行政に使われることが確実な財政措置を行うべきことを,制度面では,都道府県と市町村とが広域的に連携して相談窓口を設置する方策など地方自治体にとって取り組みやすい制度設計を具体的に提言すべきである。

2 消費者庁は,「地方交付税の基準財政需要額倍増措置」,「地方消費者行政活性化交付金」,「住民生活に光をそそぐ交付金」等の財政措置の効果や問題点を十分検証し,消費者委員会の提言を受け入れて,地方消費者行政の充実・強化にとって実効的な財政措置と施策を講ずるべきである。

3 国は,地方自治体の消費生活相談員がその専門性に見合った待遇のもとで安定的に勤務することができるような制度を整備するとともに,雇止め回避の名のもとに消費生活相談業務を安易に民間委託する方向に流れることがないよう,慎重な施策を講ずべきである。

第2 意見の理由
1 地方消費者行政専門調査会の報告書
 内閣府消費者委員会の地方消費者行政専門調査会は,本年4月,「地方消費者行政専門調査会報告書」(以下「調査会報告書」という。)を取りまとめ,また,消費者委員会は同月15日付の「地方消費者行政の活性化に向けた対応策の建議」において,調査報告書の内容のとおり関係各大臣に建議した。
 しかし,調査会報告書は,「広域連携については…国としても一定のひな形を示す必要。また併せて,財政上の負担の在り方を検討する必要」があるとするものの国の財政負担の具体策については,「『地方消費者行政活性化基金』や『住民生活に光をそそぐ交付金』のように,地方公共団体の創意工夫に基づく裁量を発揮できるような財政措置を活用する方向で,具体的な在り方について検討する必要がある」と述べるにとどまっている。
 また,消費生活相談員の処遇改善や雇い止めの回避について,「消費者庁としては,各地方公共団体の長にあてて…具体的な指針を示すことにより,消費生活相談員の適切な処遇・研修機会の確保を図る必要がある」としているもののその指針を実現するための国による財政措置の具体策は示されていない。
 こうした内容については,消費者庁関連3法の約90時間に及ぶ国会での審議経過,それを経て成立した消費者庁及び消費者委員会設置法附則第4項及びこれに関連する附帯決議への認識が不十分であるとともに,ナショナル・ミニマムの確保の観点が不十分であると言わざるを得ない。

2 消費者庁及び消費者委員会設置法附則第4項及び附帯決議
 消費者庁及び消費者委員会設置法附則第4項は,「政府は,消費者庁関連三法の施行後三年以内に,消費生活センター(消費者安全法第十条第三項に規定する消費生活センターをいう。)の法制上の位置付け並びにその適正な配置及び人員の確保,消費生活相談員の待遇の改善その他の地方公共団体の消費者政策の実施に対し国が行う支援の在り方について所要の法改正を含む全般的な検討を加え,必要な措置を講ずるものとする。」と定めている。
 その趣旨は,消費者行政を担う相談員の配置基準や処遇などについては、国が財源を保証した上での制度設計に責任を持つべきことにあり,また,国から地方自治体への支援のあり方については,地方財政法の改正も視野に入れて検討し必要な措置を講じるべきことにある。
 また,衆議院及び参議院の消費者問題に関する特別委員会附帯決議では,地方消費者行政に関連する次のような項目が挙げられている。

 嶌8綮闇程度の集中育成・強化期間後の国による支援の在り方や,消費生活センターの設置,相談員の配置・処遇等の望ましい姿について,その工程表も含め消費者委員会で検討を行うこと。」(衆議院消費者問題に関する特別委員会附帯決議第19項)

◆嶌8綮闇程度の集中育成・強化期間後の国による支援の在り方や,消費生活センターの設置,相談員の配置・処遇等の望ましい姿について,実態調査等を行うとともに,集中育成・強化期間の取組を踏まえ,その後も適切な対応が講じられるよう配意し,工程表も含め消費者委員会で検討すること。なお,検討に当たっては,広域的な設置を含め地域の実情に応じた消費生活センターの設置,PIO−NETの整備,相談員の資格の在り方についても十分配意すること。」(参議院消費者問題に関する特別委員会附帯決議第24項)

「地方公共団体の消費者行政の実施に対し国が行う支援の在り方について所要の法改正を含む全般的な検討を加えるに当たっては,消費者,生活者が主役となる社会を実現する国民本位の行政への転換を目指す消費者庁設置の趣旨にかんがみ,国と地方の役割分担など消費者行政の在り方についても併せて検討すること。」(参議院消費者問題に関する特別委員会附帯決議第30項)

以上のとおり,前記附則及び附帯決議に照らせば,国会が消費者委員会に託したものは,法改正を含めて検討したうえ,財政支援を含めた具体的な施策を提言することである。施策の細部については消費者庁に委ねるとしても,その骨格として,財政面では地方消費者行政に使われることが確実な財政措置を行うべきことを,制度面では都道府県と市町村とが広域的に連携して相談窓口を設置する方策など地方自治体にとって取り組みやすい制度設計を具体的に提言すべきである。

3 地域主権改革と地方消費者行政に対する国の支援のあり方
 調査会報告書が前記のような取りまとめにとどまったのは,政府が推進している地方分権・地域主権改革を意識したためと考えられる。
 しかし,政府の地方分権改革推進委員会は,2008年5月28日付「第1次勧告〜生活者の視点に立つ『地方政府』の確立〜」において,「国は,地方自治体の消費生活センターを法的に明確に位置付けその設置を促進するとともに,消費生活センターの設置と運営体制の強化に協力する意思のある地方自治体の取組みに対し,思い切った支援措置を行うべきである。」と提言している。
 地方消費者行政は,これまで財政支援が不十分で地方自治体が当該地域の社会的,経済的状況に応じた施策を実施すべきものとされてきた分野で,ようやく国をあげての充実・強化が図られ始めたばかりである。地方財政の縮小・悪化の中で,地方消費者行政のために確実に活用される財政支援がなされなければ,その充実・強化にはつながらないことは目に見えている。
 そもそも消費者行政の役割は,現に存在する被害者を一日でも早く救済し,新たな被害をこれ以上繰り返さないことにある。1700余の地方自治体が主体的に消費者行政の体制を整備するのに任せていたのでは,その充実・強化にどれだけの年月を要するかは見当も付かず,その間も深刻な被害が発生し続けることになる。それだからこそ,ナショナル・ミニマムを確保するために必要な施策を最優先で講ずべきである。
 このように地方消費者行政の充実・強化においては,地域主権改革の中にあっても,ナショナル・ミニマムの確保の観点から,どこの地域の消費者であっても,いつでも専門的な相談を受ける機会が保障されるなど,消費者の権利が擁護されることが必要であり,そのために国が最低基準の設定やその実現のために地方自治体が消費者行政の充実・強化を着実に推進できるような財政支援を行うべきである。 

4 これまでの財政措置の検証と今後のあり方
 地方消費者行政の充実・強化の施策を決定するにあたっては,これまでになされた財政措置の効果を検証したうえで,地方自治体が今後の消費者行政の充実・強化を推進できるような実効性ある財政措置を講ずるべきである。
 まず,「地方交付税の消費者行政に関する基準財政需要額」は,2008年度の総額約90億円に対し,2009年度は総額約180億円に倍増し,消費生活相談員の報酬単価基準についても,年額約150万円から約300万円へと倍増された。しかし,2009年度の消費者行政予算(基金を除く自主財源)は総額約129億円にとどまり,2010年度には総額約125億円に減少している。また,消費生活相談員の報酬が引き上げられた地方自治体は,2年間で180程度となる見込みであり,全国の地方自治体数の約1割にすぎない。つまり,使途自由な地方交付税について配分の目安となる基準財政需要額を倍増しても,ほとんど実効性がなかったことが明らかである。
 次に,「地方消費者行政活性化交付金」による基金について,2009年度及び2010年度の2年間の実績を見ると,消費生活センター・窓口設置事業,消費者教育・啓発事業,消費生活相談員養成事業・レベルアップ研修事業,商品テスト機能強化事業などに活用されたことは評価できる。しかし,消費生活相談員の配置・増員等(人件費)への活用は2010年度の見込みで13.9%であり,相談員の増員は全国において,2年間で550名程度にとどまる見込みである。また,相談員の処遇改善についても,報酬の引き上げが実施される見込みとなっている地方自治体は,前述のとおり2年間で180程度にすぎない。つまり,利用期間が3年間に限定された交付金(基金)では,4年目以降に財政負担を残すような人員増加や処遇改善には活用しにくいのが実情といえる。
 さらに,2010年度補正予算において創設された「住民生活に光をそそぐ交付金」についても,地方消費者行政のほかに,DV対策・自殺予防等の弱者対策・自立支援,知の地域づくりなどが対象分野に挙げられていることや,利用期間が2年に限られていることから,やはり地方消費者行政の人的体制整備にはつながらないのではないかという指摘がなされている。
 このように,国がこれまでに実施した財政支援措置は,いずれも所期の目的を達したとは言い難い。
 今後の財政措置のあり方としては,地方自治体において継続的・計画的な施策を実施できるように,例えば,地方財政法第10条に消費者事故情報収集業務・消費生活相談業務等に要する経費の規定を加えるなどして,相当程度の期間にわたり継続することを前提にしたものとする必要がある。そして,「地方消費者行政活性化交付金」の方式では,基金活用の条件があるために利用しにくいという批判を踏まえて,その条件をさらに緩和すべきである。また,「住民生活に光をそそぐ交付金」の方式では,対象分野を一層限定して住民生活の安心・安全の確保に関連する事業分野に確実に利用できるような範囲に絞った財政措置とすべきである。

5 相談員の雇い止めと民間委託の問題
 調査会報告書は,「消費生活相談員が行う事務は,多岐にわたり,また,それぞれの事務を的確に処理するためには,専門的知見やスキルを要するほか,継続的な研修と経験の積み重ねによる知識,能力の維持・向上が不可欠。その点でいわゆる雇止めは適当ではない」,「相談員の多様な働き方に応じて,非常勤職員以外の制度的な選択肢を充実する必要がある」としており,これを踏まえ,国は,相談員がその専門性に見合った待遇のもとで,安定的に継続して勤務することができるような制度を整備すべきである。
 この点に関し,消費者庁は,本年2月10日,「消費生活相談員に対するいわゆる『雇止め』について(お願い)」と題する文書を,各都道府県及び市町村に送付した。しかし,同文書は,雇い止めを行うことなく処遇の改善を図る地方自治体の事例を紹介しつつ,各地方自治体の配慮を求めるという内容にとどまり,このような文書によって,果たして消費生活相談員の雇い止めの回避が実現されるのか,その実効性には極めて疑問がある。
 のみならず,同文書が紹介する地方自治体の取組事例4件のうち2件が,相談業務を民間団体に委託した事例であり,今後の地方消費者行政のあり方について重大な問題を生ずるおそれがある。すなわち,指定管理者制度による業務の民間委託は,指定管理者となった団体内部の雇用関係により個々の相談員の雇い止めは回避できるように見えるが,指定管理者の指定は期間を定めて行うことが必要であり(地方自治法第244条の2第5項),3年から5年で委託期間が満了したときは改めて公募選考により議会の議決を経ることとなるため,同一団体が継続的に受託できる保障はない。つまり,受託団体の相談員全体について雇い止めと同様の不安定さが生じるのであり,管理者が変更された場合には地方自治体の相談窓口の体制自体に混乱が生じるおそれがある。加えて,指定管理者制度は,もともと地方自治体の管理運営費の削減の狙いが強いため,その後の委託事業費の削減により相談員の処遇が一層悪化するおそれもある。
 そもそも消費生活相談員による相談処理業務は,単に相談者に対する助言等のサービス提供にとどまらず,苦情事案を分析して事業者規制部門に結び付けたり,福祉や高齢者等の関連部局の対応を求めたりするなど,職員と相談員の密接な連携によって実施する業務であり,指定管理者への業務委託は本質的になじまないものというべきである。消費者啓発事業等の一部を民間団体に委託することによって,地域の消費者団体の活力を引き出すことは適切であろうが,消費者行政の中核的業務であり,かつ,専門性と継続性の確保が不可欠な相談処理業務を民間委託することは適切ではない。
 よって,国は地方自治体に対し,相談員の雇い止め回避の名のもとに消費生活相談業務を安易に民間委託する方向に流れることがないように,慎重な施策を講ずべきである。
以上