栃木県弁護士会からのお知らせ

「国民生活センターの在り方の見直しに係るタスクフォース取りまとめ」(原案)に対する意見書

2011年(平成23年)7月20日
栃木県弁護士会
1 「タスクフォース取りまとめ原案」は,消費者庁と国民生活センターとの共通認識の一つとして,「両組織の間では,多くの業務で目的・機能に重複がある。」から,「重複を整理合理化すべきである。」としている。
  しかし,「目的・機能の重複」との認識は誤りであり,整理合理化すべき重複はないと言うべきである。
  確かに,消費者庁と国民生活センターの機能は,消費者に対する「注意喚起(消費者庁)」と「情報提供(国民生活センター)」において,見かけ上,類似した機能を担っているようにみえる。しかし,前者は,消費者安全法等においてその必要性が認められた場合の注意喚起等であるのに対し,後者は広く国民生活の改善に関する情報提供等であり,法制的には,両者は異なるものと位置づけられ,一方の事務を他方の事務で埋め合わせることができる関係にはないから,内容が重複するものではない。
  また,消費者庁の「地方支援」の中には,特定商取引法等の執行に関する研修事務が含まれ,国民生活センターの「相談研修」と類似しているが,後者は,消費生活相談のあっせんや助言に関するものであり,また,相談員を主たる対象とするものであって,内容が重複するものではない。
  さらに,消費者庁も「教育・啓発」事務を行っており,国民生活センターの行う「情報提供」事務と類似しているが,前者は,企画・立案を手としており,実際には,文部科学省と連携して,消費者教育に関連する教科書の副読本の作成を勧めるなどの事務を遂行している。教科書の副読本の作成という,国の行政機関ならではの事務であり,これは,国民生活センターが幅広く国民を対象として行う消費者啓発のための情報提供とは異なるものであり,基本的に,両者の事務に重複はない。   
2 タスクフォース取りまとめ原案は,今後の方向性として,(1) 国民生活センターの各機能(支援相談,研修,商品テスト,情報の収集・分析・提供,広報等)を基本的に消費者庁に移管し,一元化し,(2) 支援相談,研修,商品テスト等は,「施設等機関」(消費者庁国民センター(仮称))として位置づけ,(3) 情報分析機能及びPIO-NETについては,内部部局が担当するとし,(4) 商品群テストは,内部部局と施設等機関が連携して案件やテスト手法を選定するとし,(5) ADR機能については,消費者庁にADR機能を担う組織を設け,施設等機関が事務局機能を担う,としている。
  しかし国民生活センターの各機能を消費者庁に移管することには反対である。その根本的な理由は,一般に,組織の在り方を見直すに当たっては,当該組織のそれまでの成果等について,経済性,効率性のみならず有効性の観点から検証する必要があるとされており,その検証に当たっては,専門性,客観性及び信頼性を有する識者を集めて行う必要があるとされているが,国民生活センターについては,そのような検証がまだ十分になされていないからである。
  また,消費者庁は,消費者利益の擁護・増進に関する基本的な政策の企画・立案・推進や,法執行といった権力的事務を所管するのに対し,国民生活センターは,非権力的実施事務を所管するという,その所管する事務・機能が全く異なるものであるところ,これらの異なった性質を持った事務を消費者庁に一元化することには,懸念される点が少なからずあるからである。
3 なお,「独立行政法人の見直しの基本方針」(平成22年12月7日 閣議決定)に基づき,平成23年3月末で国民生活センターが行っていた「直接相談」事務は廃止された。しかし,地方公共団体の相談業務への支援について,PIO-NETに登録された文字情報は限定的であるため,実効性のある支援を行うためには,支援する側が自ら相談業務やあっせんに取り組むことで消費者トラブルの実情を捉えることが重要であるから,「直接相談」を復活させるか,または,別途,消費者から直接,相談を受ける事務を行っていくべきである。
以上