栃木県弁護士会からのお知らせ

「布川事件」の再審無罪判決に関する会長声明

 水戸地方裁判所土浦支部は、本日、1967年(昭和42年)8月に茨城県利根川町布川において発生した強盗殺人事件、いわゆる「布川事件」について、櫻井昌司氏及び杉山卓男氏に対して、再審無罪判決を言い渡した。
 
 両氏は、別件逮捕後の取り調べにおいて犯行を自白させられたものの、第一審公判開始以降、一貫して無実を叫び続け、今日まで無罪を主張してきた。すなわち、両氏は、1978年(昭和53年)7月の上告棄却決定によって無期懲役刑を言い渡す有罪判決が確定した後も、また1996年(平成8年)11月に仮出獄となった後も、一貫して無実を訴え続け、日本弁護士連合会の支援を受けて再審請求を継続してきたのである。
 
 本日言い渡された再審無罪判決においては、両氏の自白は、犯行現場の客観的状況と合致しない点が多い上、不自然・不合理な部分があること及び看過できない重大な供述変遷があることなどとして信用性が無いものと断じており、本日の再審無罪判決は、過去に冤罪を生じさせた判決における事実認定の在り方及び捜査機関における証拠収集の在り方に厳しく反省を迫るものである。
 
 この事件において、両氏が、虚偽の自白をするまでに追い込まれたのは、捜査機関によって、別件逮捕・勾留と代用監獄制度とを利用して両氏を自由に取り調べし得る状態が作り上げられ、両氏に対する長期に渡る密室での長時間の取り調べが行われたからに他ならない。1990年(平成2年)5月に栃木県足利市内で発生した幼女殺人事件、いわゆる「足利事件」において、再審無罪となった菅家利和氏も、両氏と同様の捜査手法で虚偽自白に追い込まれていたということが明らかになっている。こうした捜査手法は、自白ありきの自白を偏重する捜査の問題点を浮き彫りにしているのである。
 
 このような自白偏重捜査を防止するためには、取り調べの過程を録画する制度が必要なことは論を持たないところである。しかし、両氏を有罪としたこれまでの裁判では、両氏の自白の一部を録音した録音テープの存在が、両氏の自白の信用性を担保する根拠とされていたところ、当該録音テープに編集の痕跡が存在していたことからすれば、取り調べ過程の一部の録画だけでなく、その全ての過程を録画しなければならないという「取り調べの全面可視化」が必要である。
 
 それだけでなく、再審請求になって初めて開示された当該録音テープが、本日の再審無罪判決の有力な根拠となったことは、「全面証拠開示」が公正な裁判にとって必要不可欠であることをも裏付けている。
 
 そこで、当弁護士会は、検察官に対し、本日の再審無罪判決を真摯にかつ重大に受け止めて控訴することなく、両氏を強盗殺人犯人という汚名から一刻も早く解放することを求めるとともに、代用監獄制度の廃止、取り調べの全課程の録画化及び全面証拠開示の実現などの刑事司法制度改革に全力を挙げる所存である。
 
2011年(平成23年)5月24日
栃木県弁護士会
会 長 横 山 幸 子