栃木県弁護士会からのお知らせ

特定商取引法の書面交付の電子化に関する政省令の在り方についての意見書

2022(令和4)年4月22日
栃木県弁護士会
会長 安田 真道


 「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」(令和3年法律第72号)の成立を受け,2021(令和3)年7月30日から「特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会」において検討している書面交付の電子化に関する政省令の在り方について,当弁護士会は以下の通り意見を述べる。

第1 意見の趣旨
1 真意に基づく「承諾」の確認方法について
 特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)改正法4条2項等の「承諾」が真意に基づくものであることを確保するため,少なくとも以下の事項を政省令に定めること,これらの事項が実行されない場合は電子交付の承諾が得られていないものと扱うことを求める。なお,真意であることの確認方法は取引類型によって異なるため,取引類型の特徴に応じた検討が必要である。
(1)販売業者が,顧客が電子データの取り扱いに習熟していることを確認すること。
(2)販売業者に以下の事項についての説明義務を課すこと。
   書面交付が原則であること
   提供する電子データが契約内容やクーリング・オフ制度を掲載した重要なものであること
   電子データの提供時がクーリング・オフの起算点であること
(3)書面により承諾を得るとともに,承諾書面の控えを交付する義務を課すこと。
(4)顧客が高齢者である場合には,販売業者は当該高齢者に対し,家族等への電子データの提供を希望するか否かを意思確認する義務を負い,その意思がある場合には家族等へ法定記載事項を記載した電子データを別途提供すること。

2 電子データの提供方法について
 契約条項を記載した電子データの送付方法については,少なくとも次のことを政省令で定めることを求める。
(1)契約条項のPDFファイルを電子メールに添付して送信する方法,あるいはこれと同等の告知機能・改ざん防止機能を確保できる方法とすること。
(2)消費者が電子データの閲読・保存を実施したことの確認義務を事業者に課すこと。
(3)契約条項のPDFファイルを電子メールで送信するに際し,電子メール本文に,商品名,数量,代金額,クーリング・オフ事項,クーリング・オフの送信先メールアドレスを表示すること。


第2 意見の理由
 特定商取引法の対象取引は,不意打ち的勧誘・利益誘導的勧誘等により,消費者の意思決定がゆがめられやすい取引類型である。そのため,書面交付義務を定めることにより,消費者に契約内容及びクーリング・オフ制度を知らせ,冷静に考え直す機会を与え,消費者を保護しているものである。また,開業規制もなく,概要書面の説明義務も,業務適正化義務も規定されていない分野であるため,書面の電子化に対する消費者保護機能を確保するためには,承諾要件や提供方法について,以下の通り他の法律よりも厳格な制度設計が必要である。
1 真意に基づく「承諾」の確認方法について(意見の趣旨1)
 特定商取引法改正法4条2項等の「承諾」が真意に基づくものであるためには,消費者が電子データの扱いに習熟していることが大前提である。例えば,消費者の所有する機器の種類,添付ファイルの読み取り・保存経験等の確認を求めるべきである。
 また,消費者が交付書面の持つ消費者保護機能を十分理解した上で承諾することが必要であるため,交付書面の重要性,とりわけ電子データの提供日がクーリング・オフの起算点になることを販売業者が説明する義務を負うこととすべきである。
 承諾についての事後的な紛争を避けるため,承諾については書面での交付が必要と考える。電子画面上のチェックボックスにチェックするだけでは,承諾の確認方法として不適切である。
 高齢者については,判断能力の低下により特に悪質業者のターゲットになりやすいことから,家族等による見守りの観点が重要である。販売業者は,家族等への情報提供の希望がないかどうかを確認する義務を負い,希望がある場合には家族等へ法定記載事項を記載した電子データを同時に提供することとすべきである。

2 電子データの提供方法について(意見の趣旨2)
 電子データの提供方法については,電子メールにPDFファイルを添付して送信する方法を基本とするべきである。電子メールによる方法は,データの送付方法として長期間安定的に利用されてきた形態であるため,統一的なルールを規定しやすく,また,消費者の元に電子データを届ける方法として,確実性が高いからである。   
 特定商取引法以外の法令のなかでは,電子データの提供方法として,データファイル(PDF等)をダウンロードするためのURLを記載した電子メールを送信する方法や,契約内容が確認できるマイページ等を閲覧するためのURLを記載した電子メールを送信する方法を認める例もある。しかし,特定商取引法においては,意思決定がゆがめられやすい取引類型であるがゆえに,消費者保護のために書面交付義務が定められているものであるから,他の分野と同列に扱うべきではない。特定のURLへのアクセスやダウンロードをしなければならないとなると,消費者のより能動的な行動がなければ交付書面の内容を確認することができず,一定期間で電子データが削除される場合もあり,書面の告知機能・消費者保護機能が果たせない恐れがある。また,SNSにデータファイルを添付して送信する方法は,事業者が利用するSNSによって仕組みが異なるため,統一的なルールを定めることが困難であることからすれば,認めるべきではない。
 また,送付した電子データの閲覧・保存を確実にするため,事業者に,消費者が閲覧・保存したことを確認する義務を負わせる必要がある。
 さらに,書面交付による契約内容とクーリング・オフについての告知機能を確保するため,電子交付の場合には電子メール本文にもこれらの事項を明瞭に表示することも不可欠である。

以上