栃木県弁護士会からのお知らせ

新型コロナウイルスの影響で経済的な窮状にある外国人に対して公的支援の措置を直ちに講じることを求める会長声明

 一昨年に端を発した新型コロナウイルスの世界的な流行はいまもなお終息する兆しは見えず、本邦においても昨年4月と本年1月の2度にわたって緊急事態宣言が発令される事態に至っている。このような状況の中、感染の原因となる国家間の人の移動を制限するための対策として、全世界的に渡航が厳しく制限されており、本邦でもこれまで同様の措置が講じられてきた。
 このような制限により、本邦においては、帰国するための航空機がない、母国で入国制限が講じられている等の理由から、母国に帰国したくても帰国することができない数多くの外国人が在留の継続を余儀なくされている。このような外国人が本邦で生活を続けるには、少なくとも衣食住を賄うに足りるだけの収入を確保することが喫緊の課題となる。
 このような状況を受けて、出入国在留管理庁は、帰国できない外国人に対し、在留資格の更新や変更を柔軟に許容し、従前と同一の業務での就労や週28時間以内のアルバイトを可能にする救済措置を講じることとした。しかし、コロナ不況を背景とする雇止めや解雇が多発している現在の不安定な雇用情勢下では、外国人にとって就労先を見つけること自体が差し当たっての難題であり、上記のような制度面での手当てのみでは現実的な救済にはつながりにくい。また、これらの外国人の大多数には生活保護等の公的援助を受給する道も開かれていないことから、これらの人々は、就労して自活することができない一方で、セーフティネットに頼ることもできないという窮地に追い込まれている。
 現状、このように就労もできず、公的援助の受給資格もない外国人は、母国からの仕送りや知人や支援団体からの援助に頼ることで僅かに露命を繋いでいるが、これらの私的な支援には財政的な限界があり、またコロナの影響による経済情勢のさらなる悪化によって支援の継続が困難となる恐れも否定できない。支援が途絶すれば、セーフティネットに頼ることができない外国人にとっては生命の危機に直結することは避けられないから、このような事態は何としても阻止しなければならない。コロナの感染拡大がいつまで続くのか予断を許さない現在の状況を考慮するならば、この先も漫然と民間の自助努力のみに委ねるのは相当ではなく、我が国が責任をもってこのような外国人に対する経済的支援を実施することが人道上の要請である。
 また、本邦にはそもそも上記のような救済措置の対象にもならず、就労することすら禁止されている多数の外国人が被仮放免者として入管施設外で生活しているという現実を忘れてはならない。すなわち、本邦には令和元年12月の時点で2217人の被仮放免者がおり、現時点では入管施設内での感染防止のためにさらに多くの被仮放免者が施設外で生活を送っている。これらの人々は今回の救済措置の対象とはされておらず、従来通り一切の就労が禁止された状態のまま、このコロナ下の厳しい経済情勢の中で文字通り生き延びるための方途を各自が自力で見出さざるを得ない状況に置かれている。しかし、これはいわば両手を縛られた状態で激流の中に放り出されているに等しく、破滅は眼前に迫っている。これらの人々にとって、経済的困窮に起因する餓死や病死、自殺など致命的な結果に至ることも十分に現実的な状況であるが、このような結果の発生をただ手を拱いて傍観していることはこれを容認するのも同然であり、人道上許されない。我が国が即時に支援の措置を講じるべきである。
 よって、当会は、日本政府及び地方自治体に対し、現在の在留資格の有無や種類にかかわらず、新型コロナウイルスの影響で母国に帰国できない外国人や就労して自活することができないなど経済的な窮状にある外国人に対し、生活保護法の準用を認めることをはじめ、最低限の生活水準を維持できるだけの公的支援の措置を直ちに実施することを求める。

2021(令和3)年2月12日
                栃木県弁護士会 会長 澤田 雄二