栃木県弁護士会からのお知らせ

死刑執行に強く抗議する会長声明

1 今年7月13日、大阪拘置所及び広島拘置所において、各1名の死刑が執行された。両名については、以下のとおり、死刑の執行が拙速になされたというべきであり、当会は今回の死刑執行に強く抗議をする。

2 大阪拘置所において死刑を執行された者は、死刑が確定した後再審請求中であった。死刑が確定した者が後に再審請求したことによって、再審無罪となったケースは1980年代に4件あり、近時では2014年の袴田巌氏に対する静岡地方裁判所の再審開始決定がある。再審請求中の死刑確定者については、従来死刑執行が回避される傾向があったにもかかわらず、これを覆した今回の死刑執行は極めて遺憾というべきである。

3 また、広島拘置所において死刑を執行された者は、裁判員裁判を経て死刑が確定した3例目である。報道によれば、本件は前科前歴がなく1名を殺害した被告人につき、裁判員裁判で死刑判決が言い渡され、弁護人が控訴したのを自ら控訴を取り下げることによって、死刑が確定したという事案である。裁判員裁判による死刑判決が高等裁判所で取り消され無期懲役となった事案は、東京高等裁判所で3件、大阪高等裁判所で2件存在するところ、このうち3件は、本件と同様被害者1名の事件であった。このように裁判員裁判では、不当に重い量刑判断がなされるおそれがあることから、当会は2013年4月24日「裁判員裁判の量刑に懸念を表明する会長声明」を発出した。本件はまさにその懸念が現実化した事案というべく、上級審の審理を経ていれば死刑判決が是正された可能性もあり、量刑の誤判の疑いのある事案である。それにもかかわらず、拙速に死刑が執行されたことは極めて遺憾といわざるを得ない。

4 当会では、2016年4月21日及び同年11月24日の2度にわたり、「死刑執行に抗議する会長声明」を発出し、死刑廃止が国際的な潮流であり、死刑制度に関する情報の開示が不完全であり、その存廃についての十分な国民的議論が必要不可欠として、死刑の執行を直ちに停止すべきとした。また、2016年10月7日、日本弁護士連合会は第59回人権擁護大会において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、国連犯罪防止刑事司法会議が日本で開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきこと、死刑を廃止するに際して死刑が科されてきたような凶悪犯罪に対する代替刑を検討すること、などを政府に求めた。そして、2016年12月19日、国連総会においては、すべての死刑存置国に対し、「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が117カ国の賛成多数で採択された。にもかかわらず、政府は相も変わらず国際的な趨勢を無視し続け、死刑制度に関する情報公開や、国民的議論を巻き起こすような取り組みを一切行わないばかりか、前記のような問題のある死刑執行に及んだことは遺憾としかいいようがない。

5 以上のとおり、当会は今回の死刑執行に強く抗議する。

2017年(平成29年)7月27日
栃木県弁護士会
会長 近 藤 峰 明