栃木県弁護士会からのお知らせ

死刑執行に抗議する会長声明

2016年(平成28年)11月24日

栃木県弁護士会
会長 室 井 淳 男


 本年11月11日,福岡拘置所において,1名の死刑確定者に対する死刑の執行が行われた。

 現在,死刑を廃止又は停止している国は140か国であり,死刑存置国58か国の2倍以上に上り,死刑廃止は国際的な潮流となっている。また,OECD加盟国のうち,死刑制度を存置している国は,日本・韓国・米国の3か国のみであるが,韓国は17年以上にわたって死刑の執行を停止,米国の19州は死刑を廃止しており,死刑を国家として統一的に執行しているのは日本のみである。こうした状況の中で,国際人権(自由権)規約委員会は,2014年,日本政府に対し,死刑の廃止について十分に考慮すること等を勧告している。また,国連総会は,同年12月18日,全ての死刑存置国に対し,「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議を過去最高数である117か国の賛成多数で採択した。

 日本弁護士連合会は,本年,「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し,我が国において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すこと,また,代替刑として,刑の言渡し時に「仮釈放の可能性がない終身刑制度」,あるいは,現行の無期刑が仮釈放の開始時期を10年としている要件を加重し,仮釈放の開始期間を20年,25年等に延ばす「重無期刑制度」の導入等を政府に求めた。
 また,当会も,本年3月25日の死刑執行について,政府に対し,死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くされるまでの間,死刑の執行を停止することを求める会長声明を発した。

 このような勧告,決議案,要請及び声明に対し,政府は,慎重な議論を尽くさず,本年3月25日に2名の死刑執行を行ってからわずか8か月足らずの間に死刑執行を行った。このことは,死刑廃止が国際社会の潮流となっていることを無視し,国際社会の要請を蔑ろにするものであり,極めて遺憾である。

 また,今回死刑が執行された事件は,裁判員裁判において死刑判決が言い渡されたものであるが,裁判員制度においては,一般市民から選出された裁判員が死刑判決に関与することになる。そのため,裁判員制度の実施にあたっては,死刑制度に関する的確な情報のもと,死刑制度の存廃についての十分な国民的議論が尽くされることが必要不可欠である。
 しかしながら,現在においても,死刑制度に関する情報の開示は不完全であり,死刑制度の存廃についての十分な国民的議論が尽くされているとは言い難い。

 当会は,このような我が国の死刑制度に関する現状を踏まえ,政府に対し,死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くされるまでの間,死刑の執行を停止することを改めて強く求めるものである。