栃木県弁護士会からのお知らせ

夫婦同氏の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所判決を受け民法における差別的規定の改正を求める会長声明

 2015年12月16日,最高裁判所大法廷は,女性のみに6か月の再婚禁止期間を定める民法第733条について,再婚禁止期間のうち100日を超過した部分は合理性を欠いた過剰な制約を課すものとして,憲法第14条第1項及び同第24条第2項に違反すると判示した。他方,同日,最高裁判所大法廷は,夫婦同氏の強制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではないこと,個人の尊厳と両性の本質的平等という憲法第24条の要請に照らして夫婦同氏の強制が合理性を欠くとは認められないことなどを理由として,夫婦同氏の強制を定める民法第750条は憲法第13条,同第14条,同第24条のいずれにも違反するものでないと判断した。
 最高裁判所の民法第733条に関する判断は,違憲とされるのは100日を超える部分に限定されている点はなお議論が必要ではあるものの,当会のこれまでの主張とも基本的には合致するものであり,妥当であるが,民法第750条に関する判断は,誤ったものであり,不当である。
 民法第750条が定める夫婦同氏の強制は,憲法第13条及び同第24条第2項が保障する個人の尊厳,同第24条第1項及び同第13条が保障する婚姻の自由,同第14条1項及び同第24条第2項が保障する平等権を侵害し,女性差別撤廃条約第16条第1項(b)が保障する「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」及び同項(g)が保障する「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」にも反する。
 今回の最高裁大法廷判決においても,5名の裁判官(3名の女性裁判官全員を含む)は,民法第750条は憲法第24条に違反するとの意見を述べ,問題となっているのは夫婦同氏の合理性ではなく,それに例外が許されないことの合理性であると指摘した。また岡部喜代子裁判官の意見(櫻井龍子裁判官,鬼丸かおる裁判官及び山浦善樹裁判官が同調)では,96%を超える夫婦が夫の氏を称する婚姻をしている現実から,夫婦同氏の強制によって氏の有する個人識別機能に対する支障や自己喪失感などの負担がほぼ妻に生じていることを指摘し,その要因として,女性の社会的経済的な立場の弱さ,家族生活における立場の弱さ,種々の事実上の圧力などを挙げ,婚姻の際にいずれかの氏を選択する意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用していると述べ,夫婦同氏の強制が個人の尊厳の両性の本質的平等に立脚した制度とはいえないと説示している。
 法制審議会は,1996年に「民法の一部を改正する法律案要綱」を総会で決定し,男女とも婚姻適齢を満18歳とすること,女性の再婚禁止の短縮及び選択的夫婦別氏制度の導入を答申した。また,国連の自由権規約委員会は婚姻年齢に男女の差を設ける民法第731条及び女性のみに再婚禁止期間を定める民法第733条について,女性差別撤廃委員会はこれらの各規定に加えて夫婦同姓を強制する民法第750条について,日本政府に対し重ねて改正するよう勧告を行ってきた。法制審議会の答申から19年,女性差別撤廃条約の推准から30年が経過したにもかかわらず,国会は上記各規定を放置してきた。
 これまで当会は,2010年3月17日付「家族法の差別的規定改正の早期実現を求める会長声明」を表明するなどして,これらの規定の速やかな改正を求めてきたが,今回の最高裁判所判決を受け,国に対し,民法第733条を速やかに改正することを強く求めるとともに,あわせて法制審議会にて改正が答申され,国連の自由権規約員会及び女性差別撤廃委員会から重ねて勧告がなされている民法第750及び同法第731条(婚姻適齢)も速やかに改正することを重ねて求める。
 2015年(平成27年)12月22日
栃木県弁護士会
会 長 若 狭 昌 稔